刻々と進む医療技術と、変化する妊娠・出産の常識。不妊治療専門病院の理事長・京野廣一先生と、出産専門ジャーナリスト・河合 蘭さんが、その最新事情を教えてくれた。

日本人の平均初産年齢は30.3歳。4人に1人が35歳以上の高齢出産で、全国で生まれる赤ちゃんのうち27人に1人は体外受精児です。ただ、不妊治療大国となった今も、妊娠力が加齢とともに低下することや、不妊治療の内容については知らない人が多いのも現実。

【写真左】京野廣一先生【写真右】河合 蘭さん

「高齢でも、病院に行けば必ず妊娠できると勘違いしている方も多い。今すぐ妊娠をしたい女性はもちろん、産みどきを考えている人も不妊治療のステップや、妊娠・出産で起こりうるリスクなど、正しい知識を持つことが必要です」(京野先生)

「加齢によって、子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科疾患も増えてきます。できるだけ早くから、かかりつけの産婦人科を見つけておきたいもの。誕生日や記念日に検診を受ける習慣をつけておくとベスト」(河合さん)

高齢出産が増えるにしたがい、出生前診断への関心も高まっています。年齢を重ねることで、染色体異常の確率は上昇します。このため、高齢出産の場合は、検査を受けるかどうかも妊娠中の女性を悩ませる問題のひとつです。

「もし検査で染色体異常があることがわかったらどうするのか。出生前診断は、妊娠中の女性に否応なく、『障害のある子を育てられるのか』という判断を迫ることになります。おおらかな気持ちで過ごしたいマタニティー期に、こうしたストレスと向き合わなければならないのは、とても酷なことだと感じます」(河合さん)

また、染色体の検査でわかるのは、染色体の異常による先天性異常だけ。先天性異常は原因不明の場合が多く、超音波検査でわかるときもありますが、出産後でなければわからないものが多いのです。

「今後、血液検査だけで精度の高い診断ができる新型出生前診断が普及していくと思いますが、検査を受けるかどうかは夫婦でよく話し合って決めることが大切です」(河合さん)

京野廣一
不妊治療専門病院「京野アートクリニック高輪」理事長。1978年に福島県立医科大学を卒業し、東北大学医学部産科婦人科学教室入局。83年、チームの一員として日本初の体外受精による妊娠・出産に成功。2001年には日本初の卵子凍結による妊娠・出産に成功した。95年に宮城県大崎市、07年に仙台市、12年に東京都港区にクリニックを開院。
河合 蘭
不妊治療、出産、新生児医療の現場を取材する、日本でただ1人の出産専門ジャーナリスト。『卵子老化の真実』(文春新書)など著書多数。国立大学法人東京医科歯科大学、聖路加看護大学大学院、日本赤十字社助産師学校非常勤講師。プレジデントOnlineで「授かりたい男女に贈る妊娠の真実」連載中。

文=浦上藍子 撮影=遠藤素子