──経済情勢や金融市場が変化するなか、個人または企業の投資マネー動向はどのように変化していますか。

【吉野】まだあまり変化していないように思います。しかし、このところの国内の物価上昇率をみると、1%内外になっています。一方で、10年定期預金の金利は0.3%台しかありませんから、定期預金で運用しても実質的には資産が目減りする状態に陥っている。このことは意識すべきでしょう。各家庭、各企業がどのような資産運用を行うかは個々の問題ですが、欧米に比べ日本ではリスク資産に回されている資産の割合がまだ低いのが実情です。

──今後、資産運用をする上で留意すべきポイントは何でしょうか。

【吉野】これは基本中の基本ですが、分散を意識するということです。ハイリスクハイリターンのものからローリスクローリターンのものまで、自分のリスク許容度に応じて配分を決める必要があります。そして、同じ方向に動くものには同時に投資をしない。こうした分散投資をすることによって、経済の成長を一定程度自らのリターンとして取り込んでいくことができます。

──最後に、資産運用を考えている個人、企業にメッセージをお願いします。

【吉野】繰り返しになりますが、現在は多くの投資市場において実力に見合った価格の形成が行われている。資産の実力がきちんと収益の源泉になっています。そうしたなかでは、実力本位の資産運用という原則を再確認する必要があるでしょう。資産を取り巻く環境が刻々と変わるなか、どんな個人、企業にとっても投資がいっそう重要なテーマになっていくはず。現状を正しくとらえ、それぞれに合った投資対象を見つけてほしいと思います。

これまでの「量的・質的金融緩和」の歩み

●2013年1月22日
「物価安定の目標」

政策委員会・金融政策決定会合にて、2012年2月に導入した「中長期的な物価安定の目途」を放棄。「物価安定の目標」を前年比上昇率で2%と明確に定めた。

●2013年4月4日
「量的・質的金融緩和」

「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するため、量的緩和として、金融市場調整の操作目標を無担保コールレートからマネタリーベースに変更。年間60~70兆円に相当するペースで増加するように。質的緩和として、長期国債買入れの平均残存期間を3年弱から国債発行残高の平均並みの7年程度に。

●2014年10月31日
「追加緩和」

マネタリーベースが年間約80兆円で増加するよう金融市場調整を行うことに。また、長期国債の年間残高が80兆円に相当するペースで増加するよう買入れ、買入れの平均残存期間を7~10年程度に延長。

●2015年12月18日
「『量的・質的金融緩和』を補完するための諸処置」

年間約3000億円の新たなETF買入れ枠を設定するなど、設備・人材投資に積極的に取り組む企業をサポート。さらに、「量的・質的金融緩和」の円滑な遂行のため、長期国債の買入れの平均残存期間を7年~12年程度に長期化、J-REITの買入れ限度額の引き上げなどを実施。

●2016年1月29日
「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」
(3次元緩和)
日銀当座預金の積み増しに▲0.1%のマイナス金利を適用。「量」「質」に「マイナス金利」を加えた3つの次元で、追加緩和が可能なスキームに。