長く一緒に成長できる「パートナー」を選ぶ

貴重な資源をもつ地域は優れたビジネスパートナーです

生産の国内回帰という流れも見えてきただけに、自治体の企業誘致にもいっそう熱が入る。ただし上村さんが述べたとおり、あくまで戦略型企業誘致が重要なのだ。上村さんは、ごく今日的な好事例として近畿地方のある自治体の活動をあげる。この市は中山間地に位置し、基幹産業は農業だが、担い手の減少に直面している。そこで、農作物の生産のみならず農業の周辺産業として加工・販売事業を行う地域外の企業も積極的に誘致するなど「農業の6次産業化」による地域経済の発展を目指している。食の安心・安全といった付加価値を高めるために、食品関連産業では、人件費よりも国内の市場を重視した国内回帰が起こっている。同市の取り組みはこの動きに対応した事例である。

市のニーズに応えられる企業にとって、これはビジネスチャンスにほかならない。ともに成功できる関係を築ける可能性があるわけだ。「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が進む今日、企業側も意欲的な地域の動向にアンテナを張ることが必要だろう。

──企業が自社の成長につながる立地先を選ぶためには、どのような視点が必要でしょうか。

【上村】企業と一緒に何をしたいのか、まずそれを明確に語れる自治体を選ぶことが大切だと思います。さらに、したいことを裏打ちするだけの地域の強みを自治体自身がきちんと把握し、他に比べて優位であることを示せるかも重要です。

企業側とすれば、その地域固有のメリットを提供してもらえることが、大きな立地理由となるはずです。例えば、規制緩和を受けた特区のように「その地域なら可能になる」という条件が自社の成長を後押ししてくれるケースもあるでしょう。また、地場産業と一緒にやりたいことがあるか、産業集積を有利に活用できるか。これらも非常に重要なポイントです。

むろん企業が目を向けるべきは、地域がもつメリットだけではありません。よい条件だけの地域など滅多になく、何かしら不十分なところもあるのが当然でしょう。自治体もそこを自覚し、誘致の提案のなかで詳らかにするべきだと思います。

企業としては、国が自治体向けに構築した「RESAS(地域経済分析システム)」(下のコラム)などを活用し、地域を概観することから始める手もあるでしょう。RESASは、自治体が現状分析を深め、長期的な将来展望に立って地域経済・産業を考えられるよう提供された、人口・産業関連のデータ分析ツールです。その機能の多くが企業や個人にも開放されています。

“RESAS”(地域経済分析システム)が地域の輪郭をスピーディに描き出す

“RESAS”(リーサス)とは、Regional Economy(and)Society Analyzing System(地域経済分析システム)の頭文字で、ビッグデータを活用した、地域経済の見える化システムである。政府が開発し、まち・ひと・しごと創生本部が自治体による「地方版総合戦略」の立案などに役立つよう、経済分野に限らない多様なデータを搭載して再構築した。

“RESAS”は、「産業マップ」「観光マップ」「人口マップ」「自治体比較マップ」の4つのマップで構成され、PCなどから閲覧できる。各マップとも直感的にクリックして操作でき、地域分析にかかわる数値データが自動的に図表化される。例えば自治体ごとの将来人口推計や、市町村単位の労働生産性や生み出す付加価値額を見ることも可能だ。

企業や個人が活用できる機能に一部制限はあるが、官庁が公表している統計データなどを自分で検索して整理しなくても、“RESAS”を使えば手軽に、しかも視覚的に理解・把握することができる。地域の輪郭を手元でスピーディにつかむには有効なツールといえるだろう。

 

企業にとって立地地域の選定は、単に用地を決めるというより「ビジネスパートナー」を選ぶのと同じだと考えた方がいいように思います。なぜなら、その成否が事業活動の成否に直結するからです。

先に東北地方の事例を紹介しましたが、それは自治体側の成功例であると同時に、進出した企業の成功例でもあります。立地先の選定では、あくまでパートナー選びの視点に徹し、長く一緒に成長していける相手であるかどうかを見極めることが、何よりも重要だと思います。