主体性を保持した寛容性と謙虚さを

人は遠い無限の過去から遠い未来へつながる「今」に生きている(左:中島宮司)
日本人らしさの一つは主体性を保持した寛容性と謙虚さ(右:赤井学長)

【中島】「中今」は、この言葉をご存じなくても、どなたでも意識していることなのだろうと思います。それは、あらゆる日本の文化や考え方に息づいているといえるでしょう。四季に恵まれ、自然に対し畏怖の念を抱くなかで育まれてきた、日本人独特の感性といってもいい。

【赤井】國學院大學の教育・研究活動の基礎にあるものも、まさにそうした日本人らしさ。特に私たちは「日本人としての主体性を保持した寛容性と謙虚さ」の重要性を説いています。グローバル化が進展しても、この日本人らしさは大事にしたいものです。また、私はよく学生たちに「グローバル化に対応するには時間軸と空間軸の認識が必要」という話をします。人は過去に学び、よりよき未来を目指して「今」を生きるほかありません。「中今」という日本人の感性を大切にするとともに、日本や自分自身の立ち位置を認識して物事を考え、自ら行動する力が欠かせません。

【中島】明治神宮もグローバル化の潮流を受け、海外からの訪問は急増しています。合理的・論理的とされる文化圏の方々も、日本の感性に心ひかれるのでしょう。かつて米高官が参拝された際、その理由を「日本の伝統と文化に敬意を表すためお参りした」と語っていました。日本文化について、私が「その基層には相手の異質性を慮り、和らぎを重んじる考え方がある。すなわちバランスとハーモニーです」とお話ししましたら、高官は「私の外交も同じです」とおっしゃっていましたね。

伝統を踏まえて新しさを求める

【赤井】日本にとって史上最大のグローバル化の波はやはり明治維新でしょう。そのなかで、先人たちはさまざまな軋轢(あつれき)を感じながら、近代化と日本人の本質の保持とのハーモニーを追求しました。そこで欧米の思想や体制を導入する一方、日本の古典を研究するため、本学の母体である皇典講究所が創設されたわけです。

【中島】そうでしたね。明治天皇が詠まれた和歌の一つに「いそのかみ古きためしをたづねつつ新しき世のこともさだめむ」とあります。温故知新を大切になさった。私たちも伝統を踏まえつつ時代に合った神社の役割を果たしたいと思います。

【赤井】本学も、故きを温めて日本人の本質に触れる「日本文化体験型授業」など、独自の取り組みを行っています。あわせて最初にご紹介した「渋谷学」では、街の最新トレンドなども積極的に取り上げ、温故知新を実践しているところ。そうした体験が、これからの日本を形づくっていく人材を育てると考えています。本日はありがとうございました。