大震災などの災害に
備えるべきこと

安全対策という点で、気になるのは、防災の観点。とくに、これから30年の間に大地震がくる可能性が高いといわれるなかで、どのような備えをすべきなのか。

「大地震は“明日くる”、と考えて備える必要があります。いつかは必ずくることに対して、今、できることは何か。今日、たんすや家具を固定して、少なくとも大地震発生時に大きな怪我をしないですむ工夫。今できるひとつひとつのことから考えることが大事です。大地震がきても、家はすぐには倒れない。であれば、その間にどの経路で安全に逃げるか。そういうことを確認しておくことが防災の基本です。もちろん、これから建てるのであれば丈夫な家を建てることが肝心。心配ならば、柱や方づえは1本でも多いほうがいいと考えてください」

何が起こるかわからない将来の時間。この長い時間をうまく想像すること。それこそが、家づくりの最重要ポイントになると、天野さんは断言する。

動いていく家族を考えた
フレキシビリティのある家づくり

「家は、時間軸に対して自由であるべきなんです。子供が成長期に入れば個室を用意してプライバシーを守る必要がある。だから子供の数だけ部屋が必要だと相談にくる人が実に多い。しかし、私は、必ずしもそうは思わないんです。子供と親が一緒に暮らす時間は、親の人生全体から見たらごくわずかの時間です。しかも、家は親が金を出して建てるものであって、そこに子供の意向など、そもそも考慮する必要があるのか(笑)。実際にその通りで……、やがて子供は出て行く。つまり、家族は動いていく。それに合わせて家も自由に動くことが望ましい」

では、自由に動く家とは、どのように考えればいいのだろうか。天野さんによれば、実は柱と屋根だけの日本の家には、もともとそうしたフレキシビリティが備わっているという。

「よく間取りといいますけれど、部屋というのは生活の場ですから、“場取り”と考えていいと思うんですよ。西洋の、石やレンガでつくる家は窓が小さく、壁で内部を区切る家。それを日本もまねてきましたが、もともと日本の建築は、柱と屋根でつくる「傘の家」。柱と柱の間をつなぐのは壁ではなくて、引き戸や障子でした。つまり、戸や障子を引いていれば場は仕切れるし、取り払えば広い場をつくることができる」

この自在さが、家を自由に動かすコツなのだ。子供が小さいころから巣立っていくまでのスパンで考えると、こんな家の動かし方があるという。

「最初は2階をつくらず、梁だけにしておく。子供ができて、どうしてもスペースが必要になったら、梁に床をはって2階部分をつくる。子供が2人、3人になってプライバシーにも配慮すべき時期には、家具で間仕切りをして空間の調節をし、子供たちが巣立った後は、2階部分を自分の趣味の場にしてもいいし、もとの梁と吹き抜けの空間に戻してもいい。家具や建具、設備などの道具は、“家の具”と考えて、必要なときに必要な“具”を入れたり出したりすればいいのです。備え付けの家具とかキッチン設備などで家を選ぶのは“愚”の骨頂だと思います」

つまり、家づくりの基本はあくまでもフレキシビリティにあり、その考え方の基本は、将来の自分がどんな生活をする可能性があるかということに対する想像力なのだ。

「これから住む家に自分と家族への想像力。もっと言えば好奇心をもつこと。つまらない間取りや彩りより大事にしたいのは、これですよ」

(取材・文=大竹 聡/撮影=中林 香)