さまざまなリスクから家族を守り、本当に安心して、そして安全に過ごせる家づくりとはどういうものか。一般住宅の設計から病院のリフォームまで、さまざまな住まいの設計を手がけ、ケミカルフリー、メンテナンスフリー、バリアフリーを提案する、建築家の天野彰氏にお話をうかがった。

あまの・あきら

建築家。「日本住改善委員会」を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会(住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計・監理を精力的に行う。TV・新聞・雑誌などでも活躍、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。著書に、『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『60歳から家を建てる』(新潮選書)、『「おひとりさま」の家づくり』(新潮新書)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)など多数。

 

40歳からの
家づくりを想像してみよう

これから家を建てるとき、何にもっとも注意を払えばいいか。家族ごとに異なる要望に合わせた家づくりを提唱してきた建築家の天野彰さんは、まずこう話す。

「家づくりを考えるときは、まず自分が幸せになれる家づくりとは何かを考えること。それが、これからの家づくりにおいて、もっとも大事なことになると思います。例えば40歳の人が家を建てるとして、もう40歳になってしまったのだから家を建てなくてはと考えるのではなく、人生80年と仮定して、残りの40年を幸せに生きるための家づくりを、もっとしっかり見据えるべきなんですね」

そのとき視野に入れておくべきことは、ずばり、この先の自分の生活、この先の人生のありようだと天野さんは解く。

「人生には何が起こるかわからない。大地震や災害に遭うこともあるかもしれない。いや、それ以前に、もっとわかりやすいところでは、今10歳、15歳の子供さんがいるとして、その子たちも10年後には巣立ってしまうことを想定すべきでしょう。夫婦だって、病に倒れ、死別ということもある。つまり、自分が、20年、25年後に仮におひとり様になったとしても、そのとき自分が安心して安全に生活でき、幸せに人生を送ることができるか。それが、これから家を建てるときの前提になると思いますよ」

健康に過ごせて、
高齢になっても住みやすい家

では、安心して生活するとは、どういうことなのか。もう少し噛み砕いてもらった。

「まずは、健康という視点があります。建材に含まれる化学物質も気にしなくてはいけないでしょうし、本物の木を上手に使うことにも目を配りたい。無垢材の家具とか、壁や柱などにも本物の木材を用いる。壁や天井にクロスを用いるだけでなくて、珪藻土やしっくいにする。そうすると、部屋の中の湿度を調整してくれるので、肌や粘膜にやさしい環境をつくることができます。また、高齢者が家の中を移動するときの障害になるものを排除するバリアフリーから、聴覚や色覚障害など、さまざまなハンディキャップに対応し得るユニバーサルデザインの考え方も重要です」