相続税対策として、また将来の私的年金として、賃貸経営に興味を持つ人が増えている。しかし、確かなメリット、プロフィットを手にするためには、相応の覚悟が必要だ。そこで、NPO法人 賃貸経営110番の森政行理事長にインタビュー。成功と失敗の分かれ道を聞いた。

それぞれの土地や物件ごとに異なるニーズがある。それを見極め、結果を出すのが賃貸経営の醍醐味です。

森 政行●もり・まさゆき
NPO法人 賃貸経営110番 理事長
賃貸経営の分野での経験を生かし、これまで5000件以上の相談を担当。プロパティマネジャーとして全国各地を飛び回りアパート、マンション貸地のトラブル解決、収益向上、安定経営の提案を数多く手がけている。

 

目的を明確にして
“経営者”の意識を持つ

──今年1月からの相続増税もあり、賃貸経営へチャレンジする方が増えていると聞きます。

【森】今回の相続税改正では、基礎控除額が4割減る一方、最高税率はアップしました。そうしたなか、実際にアパートやマンション経営への関心は高まっていると思います。例えば所有する土地にアパートを建てれば、「貸家建付地」となり評価額が下がる。評価額が下がれば、納税額も低くなるという具体的なメリットがありますから。

ただ言うまでもありませんが、重要なのは、建てた後です。誰が、どのようにアパート経営を行うのか──案外、この点を曖昧にしている方が少なくありません。どうしても、目の前の課題に気持ちが集中してしまうのです。特に現在は、賃貸住宅間の競争が激しい時代。「アパート経営」という言葉のとおり、自ら「経営者」になるという意識をしっかり持つことが重要です。

──家賃収入を将来の私的年金にしたいと、マンション投資に興味を持つ人たちもいます。

【森】金融機関の融資を受けて、レバレッジを効かせる。そして継続的な家賃収入で安定した生活を、との狙いですね。ここで求められるのも、やはり長期的な視点。10年、20年と経過していくなかで、マンションの資産価値や事業収支がどう変化していくのかをイメージする必要があります。

その上で、目的、目標をできるだけ明確にすることも大事です。漠然と「私的年金として」というのでは、不十分。自身の年齢や収入を踏まえ、マンション投資によって、何歳から、どれくらいの収入を得ていきたいのか、具体的に考えてほしいと思います。そこから課題を洗い出し、自分なりの方針をまとめた上で、事業計画やパートナー選びへと進む。この順序を踏まえることが、賃貸経営に成功するための大前提となります。

マーケティングで
入居者像を絞り込む

──目的を明確にして、“経営する”という認識を持つ。次のポイントは何でしょう。

【森】賃貸経営を“ビジネス”としてとらえれば、次に商品、つまり、アパートやマンションの特性が気になるはず。まずは「立地」。当然、人気の駅や沿線かどうかが、賃貸需要に大きく影響します。しかし、所有する土地の場所は変えられませんから、人気のエリアか、そうでないかという点にあまり意味はありません。考えるべきは、いかにそのエリアに「見合った商品」を提供するか、ということです。

例えば、単身者に人気の駅の、一つ隣の駅のそばに土地を持っていたとします。人気駅のエリアと似た物件を建てて、少し家賃を安くすれば入居者が集まるでしょうか。話は、そう単純ではありません。駅が一つ違えば、まったくニーズが異なる。そんなケースは珍しくないのです。「ここに住みたい人はどんな人だろう?」。これをとことん考えるのが、経営者の仕事。単身者層か、ファミリー層か、若者か、女性か。まさに、マーケティングです。