トップは「因小失大」に
陥らないように

──これまで多くの企業の経営改革を後押しされてきて、成功する企業の共通点などはお感じになりますか。

【藤本】キーワードの一つは、「因小失大」。これは、小さなことにこだわりすぎると、大きなことを見失うことを意味します。トップが、細かな業務のことまで口出ししたり、権限移譲できていないと必ず部下は伸びなくなります。結果的にトップが実務に埋没してしまいます。

よって、経営改革を進める条件としてトップに、「どうしても譲れないことだけを決め、それ以外は一任する。途中で、これはダメ、あれはダメと後出しをしないようにしてほしい。そうなると、すべて指示待ち族となって改革は頓挫しやすい」とお伝えしています。


出典:『コンサルタントが伝授する経営改革マニュアル』(藤本忠司 著)

経営改革というのは多くの場合、図にも示した「Jカーブ」と呼ばれる軌跡をたどります。改革当初は、慣れないことも多く、これまでにない負荷もかかるため、いったん社内の状況が悪くなることが普通なのです。この局面で社長が細かいことを言い始めると、管理職も、社員もうんざりしてしまいます。

通常、経営改革は3年、5年の期間を見据えて変えていくもの。ぜひ経営トップには、中長期の視点を持って、Jカーブ効果をもとに行動をお願いしています。

──やはり経営トップの姿勢や考え方が重要になりますね。

【藤本】そうですね。社長には広い視野を持って自分の会社を見てほしいと考えています。では、具体的にどんな部分を見ていけばいいか。基本的ですが、「決める」「守る」「続ける」「異常時のホウレンソウ」──この4つがきちんとできているかがポイントになります。これらはまさに企業の基盤ですから、堅固であればその上に改革を積み上げていくことができる。この4点は、経営改革が成功するかどうかを把握する着眼点です。

──最近は、中小・中堅企業が利用しやすいITサービスや人材サービスも数多く登場しています。上手な使い方はありますか。

【藤本】導入する前にニーズや目的を絞り込むことが重要です。どういうアウトプットを目指して、新しいサービスを導入するのか。これが明確になっていると、導入後の成果も評価しやすいでしょう。過大な期待ばかりが先行して、目的が曖昧だと、サービスの価値を計りかねることになります。またどんなサービスにも、プラス面、マイナス面がありますから、自分の会社にとっての価値をしっかり把握することが大事です。

──最後に、今後経営改革に着手したいと考えている経営者へメッセージをお願いします。

【藤本】繰り返しになりますが、日々の業務に追われるばかりでなく、自分の時間を毎日数時間持ってほしい。3~5年後の会社はどうありたいかを考えて構想できる時間を確保してほしい。そのなかで特に力を入れるべきは、「人を育てる」こと。優れた経営者が優れた管理職を育て、優れた管理職が優れた監督職を育てる……。これは20年間にわたってコンサルタントを務めてきた私の強い実感です。

 経営改革には、もちろんさまざまな困難がともないますが、“変われない会社はない”というのも私の信条。ぜひ、第一歩を踏み出してほしいと考えています。