企業経営に100%の正解は存在しない。常に状況、環境に合わせた改革が求められる。20年以上、主に中小・中堅企業に対して経営改革のサポートを行ってきた日本生産性本部の藤本忠司氏に、その勘所やソリューションサービスの活用法を聞いた。

藤本忠司●ふじもと・ただし
公益財団法人 日本生産性本部
主席経営コンサルタント


1959年生まれ。ローム(株)生産本部・管理本部に勤務した後、日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了。主席経営コンサルタントとして、国内外の多くの中堅企業を中心に、「経営改革」「さまざまな業務プロセス改革」「人財育成」などを展開している。コンサルティングの信条は、業界・規模・国に関係なく「やることをしっかり決める」「決めたらやり切る」。「達成すべきこと」を「できること」で終わらせないように、一緒に衝突や喜び泣きながら、挫折と成功を繰り返し、感動を味わえることを目指している。著書に『中堅中小企業トップのためのコンサルタントが伝授する経営改革マニュアル-The BEST WAY(同友館)』『組織が元気になる! 業務プロセス改善マニュアル(中央経済社)』『調達デザインによる最適購買モデル(生産性出版)』など多数。

危機感は強いが
改革の方法が分からない

──この10年、15年の間に、企業の組織運営が大きく変わりました。藤本さんは、どのような点に注目されていますか。

【藤本】特に、組織全体の調整機能の弱まりが顕著になっています。事業を進める上で、組織と組織の間のグレーな部分を効果的に調整しないと円滑に進みません。団塊世代のベテラン社員のリタイアもあり、多くの企業でこの調整力が低下している。結果的に管理職の負担が増してしまい、経営改革を進める場合でも、思うようにいかないというケースがよくあります。それを打開するため、組織運営の知見やノウハウ、また高い実務能力などを持った人材の確保は、今後、ますます重要になっていくでしょう。

──経営者自身は、そうした変化を認識しているのでしょうか。

【藤本】経営トップのほとんどの方々は、いま述べたような社内の状況を含め、事業環境の変化に強い危機感を抱いています。ただ、いざ改革しようとしても過去の経験や知見を生かすことができないため、やり方が分からない。遭遇したことのない環境変化に翻弄されるばかりで、トップも日々発生するモグラたたきで終始している場合が多い。しかし、経営の方向性を変える改革は、トップにしかできません。経営者は、自分の時間をしっかりつくり、いままでの常識や価値観にとらわれることなく、自社の「ありたい姿」を描く必要があるでしょう。

──では、具体的に経営改革を考えたとき、どのようなことからスタートするのがいいでしょうか。

【藤本】経営者というのは、どうしても同業他社と比較して、自社の弱みに目がいきがち。しかし重要なのは、強みを見極め、それに磨きをかけることです。強みとは言い換えれば、「価格以外で顧客から見た自社との『取引するメリット』や『他社との違い』」。これを正しく掴んでいる会社は案外少ないものです。

コンサルティングの一環で、クライアントのお客様へ一緒に訪問することがあります。そこで「取引理由」を質問すると、「いつもかゆい所に手が届く対応で助かっている」「こちらが言わなくてもいろいろ提案してもらって心強い」という話が出てくる。まさに、こういったものがその会社の強みです。これをいかに戦略的に競争優位性につなげていくか、ということが経営改革の重要なポイントの一つになるでしょう。

一方、過去15年間やり続けた調達品のコストダウンや経費削減は、過去の延長線上では限界となっています。内部コストをさらに下げるためには、業務改善の視点を変えなければなりません。例えば、管理間接部門の業務改善について、部門任せではお茶を濁して終わりとなり効果は限定的です。トップが関与し経営視点で業務を見直し、「競争優位を発揮しない業務」「過剰品質」は、なくしていきます。これは、トップしかできません。