家づくりは家族の思いを
見つめ直す格好の機会

3つめは、家を建てるにあたって最も重要なポイントです。

家づくりで満足度が高い人には、共通した傾向があります。それは、建てた家でどのような暮らしがしたいのかがはっきりしていることです。

例えば私の施主で「新しい家に娘は高校の3年間しか暮らさないから、思い出づくりのできる家にしたい」という方がいます。また「アロマテラピーが趣味なので、それを生かせる家にしたい」という方もいました。このように暮らし方のイメージがはっきりしている方は、家づくりに成功しています。

しかし、私の所に相談に来られる方でも、暮らしのイメージを持っていない方のほうが多く、その方たちは情報に振り回されがちな傾向もあります。インターネットの普及もあり、今はおびただしい量の住宅関連情報に触れられるようになりましたが、それが逆に混乱のもとにもなっています。

情報には「モノとコト」の2種類があります。モノは住宅のハード面。しかし、これは進歩が早く、われわれプロでも追いかけるのがやっと。一般の方がこれを追いはじめたら迷子になるでしょう。

それより大事なのはコト、新しい家での生活シーンを想像することです。例えば自然素材を多用した温かみのある部屋で過ごしたいと思えば、住宅展示場に行っても、それに準じたモデルハウスしか見ないでしょうから、情報過多で困ることはなくなります。コトがはっきりすれば、必要な情報が自然と集まります。

さらに重要なのは、そうした新しい家での暮らしのイメージを、家族で共有することです。家族それぞれが新しい家に期待や夢を持っているはずです。希望や思いはバラバラでもいいのです。それを語り合うことで、互いの思いに寄り添い、歩み寄るようになっていきます。

家族は、一緒に暮らしながら、案外と一人ひとりの思いを聞く機会がないものです。子供のためと思いながら考えた部屋が、実は親の一方的な押しつけにすぎなかったということが「子供に希望を聞いて初めてわかった」という父親もいました。

家づくりは、家族それぞれの思いを見つめ直す良い機会です。暮らしのイメージを伝えて、どこならばその実現に近づけるかを、じっくりすり合わせていくことが大切です。

(高橋盛男=取材・文 吉江好樹=写真)