子どもの脳は、年齢に応じてどのように発達していくのか
わが子を「頭のよい子」に育てたい――。
それは、親であれば誰もが抱く、ごく自然な願いだと思います。では、「頭のよい子」とは、どのような子なのでしょうか?
まず、「IQが高い」「記憶力がいい」「計算が速い」といった、いわゆる勉強ができる子を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、勉強ができていい大学に入る子に育てばそれで十分かというと、少し違うのではないでしょうか。
日々、脳の研究を行っている私たちは、学習能力や記憶力だけではなく、物事を理解したり、判断したり、将来を予測したり、さらには自分自身の感情や行動を抑制したりするといった能力の複合体を「頭のよさ」だと考えています。IQの高さや記憶力を重視していたのは、一昔前のこと。今は違います。なぜなら、先が読めない時代になったからです。
現代は、勉強を頑張って偏差値の高い大学に入り、大企業に入社したとしても、その会社があっさり倒産することもあれば、小さなスタートアップ企業がわずか数年でグローバル企業に成長するなど、数年先のことは誰にも予測できなくなりました。また、AIの進化によって、現在ある職業の多くがなくなるといわれる一方で、新しい職業が次々に誕生しています。
10年先どころか5年先も見通せない世界を生き抜くことになるこれからの子どもたちにとって、唯一確かな武器となるのは、「変化の激しい社会でも通用する頭のよさ」です。正解が決まった問題を速く解く力より、変化の中で考え続け、周囲と協力しながら道を探していく力がこれからは求められます。
脳科学の研究成果によって、こうした能力は、脳の「前頭前野」と呼ばれる部分の働きと深く関わっていることがわかっています。「頭のよい子」を育てるには、まず親御さんがこの前頭前野を中心とした脳の発達について、基本的な知識を持ち、それをもとに子育てを実践することが非常に重要です。このように、脳の発達を意識しながら子どもを育てることを私は「育脳」と呼んでいます。
では、人間の脳はどのように発達していくのかというと、生まれてからまず急激に発達するのが「運動」と「五感」に関わる部分です。五感とは、見る、聞く、触る、嗅ぐ、味わうといった、生きていくうえで基本的な感覚のことです。この二つは、2〜3歳の頃に大きく発達し、5歳くらいまでには大人の脳の約9割ほどまで育ちます。ここが育脳における重要なポイントになります。この間に、どれだけ多彩な運動や経験をさせるかで、運動能力と五感の「器」の大きさがおおよそ決まるのです。ですから、家庭内でさまざまなものを見たり、聞いたり、嗅いだり、触ったり、味わったりする体験をさせて、脳を十分に刺激することが重要です。
それと同様に、前頭前野も生まれてから就学前までの間に、急激に発達することがわかっています。ところが、前頭前野の場合、それで終わりではありません。その後、しばらく発達のスピードが緩やかになるものの、思春期に入る頃から、高校卒業・大学入学の年齢に達するまでの間に、再び大きく発達することがわかっています。つまり、頭のよい子に育てるチャンスは2回訪れるのです。
もちろん個人差がありますから、年齢できっぱりと区切ることはできませんが、生まれてから就学前と、思春期から10代後半にかけての、2回の発達期があります。
1回目の時期は、子どもが自分で育つ環境を選ぶことはできませんから、この時期の育脳は、基本的に親の責任です。しかし、2回目は、本人が自主的に自らの発達に関与できます。ですから、それまでに子どもに正しい知識とよい習慣を身につけさせるのが親の役目になるのです。
このように、頭のよい子を育てるには、親御さんが正しい知識を持ち、子どもの脳の発達に合わせて環境を整えることが、非常に重要なのです。
頭のよしあしは生まれつきではありません
「頭のよしあしなど、生まれつき決まっている」。昔からそういわれてきました。今もそう思っている人が多いのですが、これに関して最新の脳科学は、非常に明確な答えを示しています。結論から言うと、人の能力の9割以上は、環境によってつくられていることがわかっています。「生まれつき」とは親からの遺伝を意味していると思いますが、遺伝の影響はまったくないとは言えないものの、大きくはありません。これは双子研究などによっても裏づけられています。ほぼ同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でも、育つ環境によってまったく違う能力を発揮するケースが、世界中で報告されています。
もちろん、顔や体格などの身体的特徴と、運動能力に関しては遺伝の要素が強いのですが、脳の活動として生じる「認知機能」は、環境によってはっきりと変わるのです。
「東大出身の両親からは、東大生が生まれやすい」といったことは以前からいわれてきたことですが、それは遺伝による能力ではなく、勉強のしかたや生活習慣が親から子に伝わった結果に過ぎず、「貧乏の連鎖」と同じ理屈なのです。
正しい知識にもとづいて成育環境を整えることによって、親の能力に関係なく、子どもの能力を大いに伸ばせます。反対に、なんとなく育ててしまうと、子どもが本来持っている能力を発揮できない人生を歩むことになる可能性が高いのです。


