いろんなことにチャレンジする子とそうでない子は何が違うのか。『安心感が子どもの心を育む』(小学館)を書いた東京大学大学院教育学研究科の遠藤利彦教授は「子どもに不安や恐怖を与えないことが大事だ」という。3歳の息子を育てる、ノンフィクションライターの山川徹さんが聞いた――。

3歳児が異様に怖がる意外な場所

3歳児Kは、慎重な性格だ。

はじめての料理には口をつけない。ストライダーに乗っても、同年代の子に比べて、スピードは抑え気味だ。はじめて足を運んだ公園で、ジャングルジムや、滑り台などの新しい遊具に一度は上ってみるものの「Kには、まだ早いから」と言ってすぐに下りてしまう。

慎重というより、臆病なのではないか。そう感じる瞬間もあるが、無茶な冒険をしたがらない慎重な3歳児は親としては安心だ。

しかしあまりの慎重さが、私たちを悩ませる。慎重すぎて、遠出ができないのだ。

原因が、トイレだ。

3歳になった頃には、日中のオムツは必要なくなった。家のトイレでは、おしっこもうんちもできるようになった。

トイレの水を流す子ども
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです

だが、ハードルとなっているのが、外出先のトイレ。

Kは知らないトイレに入るのを極端にイヤがる。外出する際にはオムツをはかせたいのだが、イヤがる日も少なくない。外出前にトイレを済ませたとしても、行動範囲が限られてしまう。

「トイレを怖がるお子さんは多い」

ある日、Kの足に湿疹が出た。皮膚科で診察を受けたあと、処方箋をもらうために待合室で待っていた。

「トット(父である私のこと)、おしっこ」

そう訴えるKの手を引いて、トイレに連れて行った。

「ここでしよう」と促したが、「こわい。おうちにかえる」と言って聞かない。

「怖くないよ」と実演して見せたが、Kは頑なに言い張った。

「でも、こわいの。Kはおうちのおトイレがいいの」
「かえるって言ってるでしょ!」

病院でおしっこをもらすわけにはいかない。一度、帰るしかないか。病院から自宅までは2キロほど。ベビーカーなので30分はかかる。走れば15分くらいで帰宅できるかもしれない。とはいえ、処方箋はもうすぐのはず……。

私が逡巡している間も、Kは「おしっこ」と股間を押さえている。

やり取りを見ていた受付の女性が笑って「いま出しますからね」と言って、すぐに処方箋を出してくれた。

その日はなんとか間に合って、事なきをえた。しかしKの要望で自宅から離れた公園に向かう途中、「おしっこ」と言い出して慌てて引き返したり、外食を途中で切り上げて帰宅したりしたこともある。Kが外出先のトイレを怖がるようになり、10カ月近くになる。

Kがもう少し成長すれば、解決する問題なのだろう。だが、いつまで続くのか。いまの私たちにとってKのトイレ問題は、無視できないストレスだ。

トイレに対するKの恐怖心を取り除くにはどうすればいいのだろう。

安心感が子どもの心を育む』の著者で、東京大学大学院で教育学の教鞭を執る遠藤利彦先生は「トイレを怖がるお子さんは多いんですよ」と切り出した。