今後の日本の成長産業の一つとして観光産業が大きな注目を集めている。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催も追い風にして、拡大する国際観光市場で日本が競争力を高めるための課題とそれに対する処方箋をキーマンの一人、JTBの社長が語る。

なぜツーリズム産業が
成長産業なのか

2020年、東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定しました。日本経済および「観光立国」を国家的な戦略課題に掲げている日本のツーリズムにとっても、非常に大きな意味があることだと思います。

「観光」というと日本ではレジャーマーケットの狭い世界でとらえられがちですが、その裾野ははるかに広く、あらゆる産業とかかわりがあります。

世界のツーリズム関連企業のトップ約100名で構成されるWTTC(世界旅行ツーリズム協議会)の調査によれば、世界におけるツーリズム産業の直接経済効果は約2兆ドルで、自動車産業の2倍以上。世界全体のGDPの9.1%(約6.3兆ドル)をツーリズム産業が占め、雇用創出効果は世界で約2億5500万人。世界全体の雇用の8.7%を占める重要な雇用創出産業です。

一方、日本における旅行消費の経済波及効果は46.4兆円で、日本のGDPの5.1%、雇用創出効果は約400万人で、6.2%にすぎない。つまり日本のツーリズム産業には、まだ成長・発展する余地があります。2020年までの7年間で、どこまで世界の数字に近づけるか、一つ、着目すべきポイントです。

昨年、2012年の日本の海外旅行者数は1849万人でした。一方、海外から日本にやってくるお客様の数は861万人。先進国なら人口に対して出国も入国も2割が基準といわれていますから、約1億2000万人の日本の場合、海外から2400万人ぐらいはいらしてもいい。

これだけ観光地がたくさんあって、インフラも整っているのに、どうして外国からのお客様がこんなに少ないのか。日本経済の七不思議の一つだと思いますが、やはりそこに乗り越えなければならない課題があります。

ビザ要件の緩和や出入国手続きの改善、オープンスカイの促進など、さらなる規制緩和の必要性という政治的な、つまりハード面での課題ばかりではありません。

田川博己●たがわ・ひろみ
(株)ジェイティービー代表取締役社長
1948年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。71年、入社。JTB専務取締役などを歴任、2008年より現職。JATA(日本旅行業協会)副会長、WTTC(世界旅行ツーリズム協議会)理事。

WEF(世界経済フォーラム)の調査によれば、観光分野における国際競争力ランキングで日本は14位で、人的資源、文化的資源、自然的資源では負けていませんが、観光受容度、つまり親近感や歓迎度合で劣っているとされている。

バリアフリー化を進めることももちろんですが、私がよくお話しするのが2006年に開催された長崎さるく博の成功です。「さるく」とは長崎の方言で歩くという意味。このイベントは、翌年から「長崎さるく」として継続され、地元住民がコースを企画、ガイドを引き受け、観光客はまち歩きや地元の方々とのふれあいを楽しみ、普段着の長崎を堪能できると好評です。かつて観光地の魅力には名所旧跡や有名旅館などが挙げられましたが、現在は地元の歓迎の雰囲気や「大切にされた」という印象がポイントです。「おもてなし」の心が伝わるか、いわばソフト面での課題解決も重要です。