「変革」を目標に掲げる企業は多い。しかし、緻密な戦略を立てたもののうまくいかずに、失敗した企業は少なくないのではないだろうか。世界50以上の主要都市で知見を積んできた欧州系グローバル経営コンサルティングファームであるローランド・ベルガーは、変革を実行するためには「参謀」の存在が不可欠だと指摘する。「変革参謀」とは何か、変革を成功させるためにはどのようなプロセスが必要になるのか――。

※本稿は、株式会社ローランド・ベルガー 企業変革支援チーム シニアパートナー・田村誠一、変革アドバイザー・野本周作『変革参謀 当事者が語る「リアル」』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

「戦略」を絵に描いた餅で終わらせない

会議が終わったあと、「ロジカルでしたね」「納得感があります」という言葉が飛び交う――そんな場面は少なくないでしょう。それ自体は、決して悪い評価ではありません。しかし数カ月後、現場を見渡してみると、会社はほとんど変わっていない。そんな経験を持つ企画部門や経営層は、多いのではないでしょうか。

それは、「実行」のプロセスが実現できていないからです。

多くの経営者は、「戦略」を策定することに時間を注ぎます。ビジョン(北極星)を探し、海図(戦略)を描くことに注力する。しかし、日本企業が本当に苦手としているのは、その先の「航海(実行)」です。

どれほど精緻な海図でも、嵐が来れば進路は変わり、船員(社員)が疲労すれば休ませる必要があります。小型船舶と大型客船では、方向転換にかかる時間も違います。戦略という「絵に描いた餅」を本当に食べられる餅にするには、泥臭い「実行」のプロセスが不可欠なのです。

変革の成否を分ける鍵――「変革参謀」とは?

この泥臭い「実行」のプロセスを完遂する際に力を発揮するのが、「変革参謀」です。変革参謀が担う役割をここで簡潔にご紹介します。

「進むべき道」と「覚悟」を提示する

変革参謀は、不確実な未来に対して方向性を示す存在です。正解のない状況でも旗を掲げ、最初の一歩を踏み出す推進力を生み出します。また、その意思決定に責任を持って、自ら資源を投じ、その成果を引き受ける覚悟が求められます。

「実現性」と「組織の調査」を担保する

変革参謀は、提示した方向性を組織が実行できる形に落とし込む存在です。分断されがちな機能をつなぎ、外部の論理と内部の感情を調整し、組織を動く状態へと導きます。必要に応じて現場に入り込み、暫定的なライン責任を負うこともあります。

この2つの役割を、自社の状況に応じて行き来しながら変革を前に進めていく。その柔軟さこそが、変革の成否を分ける鍵であり、変革参謀の仕事なのです。

精神論ではない「覚悟」が組織のエンジンに

変革を前に進めるために、変革参謀が問われるのは、賢さだけではありません。必要なのは覚悟です。覚悟とは精神論ではありません。

例えば、内心では撤退ラインを持ちながらも、あえて言葉にするのは「プランBはない。やりきるしかない」という不退転の姿勢。変革参謀が腹をくくった瞬間、チームに本気の緊張感が生まれます。チームメンバーは「これは本気だ」と感じ、能力を最大限に引き出そうとしてくれるでしょう。

反対や摩擦が起きる前提で施策を設計する。理屈ではなく、退路を断つ覚悟で、結果が出るまで向き合い続けることが組織に火をつける燃料になります。つまり、“自分は正しい”で終わる人ではなく、決断に一緒に巻き込まれる人になることが、変革参謀にとっては重要なのです。

こうした問題意識は、特定の企業や個人に限られたものではありません。多くの変革現場で、同じ壁が繰り返し立ちはだかっています。

そうした現実に真正面から切り込んだのが、『変革参謀 当事者が語る「リアル」』(プレジデント社)です。この本では、当事者の言葉で、なぜ今変革が不可避なのか、変革を成立させるために必要な設計、人の見立て、壁の壊し方、機運づくり、文化の書き換えといった「変革」を前に進めるための極意を、実際の経営変革の現場から掘り下げています。そしてそれらを体現する存在としての「変革参謀」の心得を描きました。

著者であるシニアパートナーの田村はJVCケンウッドや日本電産で企業変革を主導し、変革アドバイザーの野本は外食産業の経営者として、コロナ禍における意思決定やDX推進に向き合ってきました。現場で矢面に立ちながら下す意思決定の重みと、変革をやり抜くための泥臭さを体感しています。

田村と野本が数々の修羅場で目撃してきたのは、「順調なときに次の危機の芽を摘み、変革の種を蒔ける参謀」と、「そうでない参謀」の決定的な違いでした。その差を決めるのが、「危機感」と「危機意識」という似て非なる能力です。危機感とは、赤字転落や事故発生といった「すでに起きた危機」を前にして、「これは危ない」と反応する力です。危機意識とは、外から見れば平穏そのものの時期に、将来の危うさの匂いを先取りし、まだ形になっていない影を言語化できる力を指します。

多くの日本企業は、「危機感は強いが、危機意識が弱い」という構造を抱えています。赤字に転落してから騒ぎ、競合にシェアを奪われて初めて目を覚ます。しかし、それはあくまで「起きてしまった出来事」への反応にすぎません。真の参謀は、順調なときにこそ波風を立て、あえて組織のぬるま湯をかき回す勇気を持てるかどうかで力量が試されます。

賢い人はこれからも増える。AIはそれをさらに加速させるでしょう。その中で、ただ「賢いね」と言われて戦略を実行できないで終わるか、覚悟を引き受けて会社を変える側に行くか。その分かれ道は、肩書きでも才能でもありません。どこまで、その「責任」を引き受けるつもりか――その選択にあります。

田村誠一、野本周作『変革参謀 当事者が語る「リアル」』(プレジデント社)
株式会社ローランド・ベルガー 企業変革支援チーム 田村誠一、野本周作『変革参謀 当事者が語る「リアル」』(プレジデント社)