どの時代も特に子どもは壊れていない
2000年前後には、子どもの体温が下がり、さまざまな問題が起きているという説が広まりました。私が文献を探す中で見つけた2000年のAERAの記事は「子どもが壊れる もはや『生き物』としても危うい体」という刺激的なタイトルでした。同じ年の朝日新聞には「夕方までぼんやり? 低体温の子 通学意欲も薄れる傾向」という記事がありました。
こういった記事に先んじて1996年に沼津市立病院の小児科医(当時)梁茂雄氏は、昔と比べて子どもが低体温になり不調が増えているという説が一部にあるが事実ではないこと、小児の体温について論じる際には一定の条件で測定する必要があると指摘しています。
2002年に行われた北海道大学の石井好二郎氏の研究によると、口腔温が36℃未満かどうかと、睡眠、運動、習い事、食事、起立性調節障害傾向、肥満にはほとんど関連が認められず、肥満と関連する「β3アドレナリン受容体」の遺伝子変異との関連についても有意差はありませんでした(※2)。この論文の中で、石井氏は誤情報がマスメディアを通じて広がってきたことへの注意も示しています。
あれから25年以上経ちましたが、「生き物として壊れた」と言われた子どもたちはどんな大人になったでしょうか。私は2000年以前から小児科医として診療を続けていますが、そのような子どもを見たことはありません。スマホによって「子どもが壊れる」こともないでしょう。
※2 石井好二郎「低体温児と生活習慣、食習慣は関連するか?」
科学的根拠に乏しい「警鐘」こそが有害
このように子育てに関して科学的根拠に乏しい「仮説」を強い根拠があるかのように喧伝するのは、「善意の警鐘」のつもりかもしれません。しかし、実際には倫理的に大変問題のある行為です。
こうした言説が繰り返されるのは、「悪者」を作って叩くことでカタルシスが得られるからでしょう。子育てに関する話題は世間の関心も高く、単純化された説明は耳目を集めます。「警鐘」を鳴らした人は、本が売れたり記事が読まれたりするうえ、正義の側に立てるのです。また読者側も「今の親はダメ」「昔は良かった」と吐け口にできるから読まれやすいのでしょう。
でも、よく考えてみてください。的はずれな警鐘で子どもがよくなることはありません。親を断罪しても、子育てがよくなることはありません。むしろ、それぞれ自分なりに必死で子育てしている親たちに刃を向け、罪悪感を抱かせ、不必要な行動制限やストレスを与えて追い詰めれば、親は疲弊します。すると、余裕を持って子育てできなくなり、子どもに悪影響を及ぼすことになるのです。
最後に、親御さんは不安を煽る記事は気にせず、ぜひ目の前のお子さんと過ごす時間を大切にし、よい関係を築いていってください。そして周囲の人は、親を批判するのではなく、可能な範囲で支援したり、新しい技術と共生する方法を考えたりしましょう。科学的根拠に乏しい「脅し」の連鎖を終わらせることができればと思います。

