日本企業の発展を阻む課題が山積するなか、深刻なのは「人財」の不足だ。それを補うAI活用も進んでいない。経営層は未来に向けてどう対応すべきか。世界60の国と地域で総合人財サービス事業を展開するAdecco Groupの日本法人 アデコ株式会社代表取締役社長の平野健二氏に、人財不足時代を生き抜く指針を聞いた。

日本の課題は「仕事の目的意識」と「キャリア自律」

人財不足は、単なる「人手」の問題ではなく、経営の設計そのものが問われる問題だ。どれほど優れた事業戦略を描いても、それを担う「人財像」が具体化されていなければ、計画は机上の空論に終わるからだ。

こうした課題意識のもと、「Making the future work for everyone」をパーパスに掲げて人財サービスを提供するアデコ株式会社は、中長期向け事業発表会を開催。2030年に向けた新たな成長戦略を発表するとともに、AI時代の働き手と企業を支援する「未来共創人財プロジェクト~Future Talent Project~」の開始を発表した。

同発表会で公表されたAdecco Groupによる世界31カ国を対象に実施したグローバル調査(※)では、日本は世界と比較して仕事におけるAIの導入・活用が大きく遅れていることが明らかになった。

さらに、日本の働き方には、仕事の目的を明確に意識しにくい構造的な課題があることも浮かび上がった。同調査において、「仕事に対して目的意識を持っている」と回答した日本の働き手の割合(17%)は、世界平均(46%)を大きく下回っていた。

平野氏は、この目的意識の欠如は個人の姿勢の問題だけではないと語る。

「日本では、長らく終身雇用を前提とした企業主導型のキャリア形成が一般的でした。バブル崩壊以降、日本的雇用慣行は変化しつつありますが、この考え方がいまだに根強い会社も少なくありません。大きな失敗をしなければ会社にい続けられる、という前提があると、自分のスキルをどう高めるか、どんなキャリアを築くかをどうしても主体的に考えにくくなります」

実際、仕事に対する目的意識の低さは、キャリア自律度合いの低さにつながっている。AI時代においては、与えられた業務をこなすだけではなく、「なぜこの仕事をするのか」を理解し、自らの成長と結びつける姿勢が必要だ。

「これからは、一人ひとりが主体的にキャリアを考え、目の前の仕事に目的意識を持って取り組むことがより重要となります。従って企業側にも当然、その前提となる環境や機会づくりが不可欠となります」

平野健二(ひらの・けんじ) アデコ株式会社代表取締役社長 2004年にアデコ株式会社入社。2018年に同社執行役員ジェネラル・スタッフィングCOOに就任。2022年10月、同社取締役兼Adecco Chief Operating Officerに就任。人財派遣事業およびアウトソーシング事業のブランドであるAdeccoの日本における責任者として、様々な新規事業の立ち上げ、リスキリングの推進、アウトソーシング事業の拡大等を指揮する。2024年4月から現職。
平野健二(ひらの・けんじ) アデコ株式会社代表取締役社長
2004年にアデコ株式会社入社。2018年に同社執行役員ジェネラル・スタッフィングCOOに就任。2022年10月、同社取締役兼Adecco Chief Operating Officerに就任。人財派遣事業およびアウトソーシング事業のブランドであるAdeccoの日本における責任者として、様々な新規事業の立ち上げ、リスキリングの推進、アウトソーシング事業の拡大等を指揮する。2024年4月から現職。

AIを「人の代替」ではなく「人を支える存在」に

同調査によると、日本の働き手のAIに対する信頼度(10点満点)は0.9ポイントと、世界平均4.5ポイントを大きく下回った。この信頼度の低さが、日本のAI導入と活用に影響している可能性がある。

平野氏は「AIを恐れるのではなく、どう位置づけるかを決めることが経営の役割」と語る。

「AIを人の代替と考えると不安になります。しかし、人を中心に据えて考え、AIを『人を支える存在』と位置づければ、見え方は変わります。経営者自身がAIを理解し、使いこなし、方向性を示すことが重要です。AI導入が遅れている日本において、最大の課題は技術そのものではなく、経営側がどこまで主体的に向き合えているかにあります」

発表会に登壇した東京工科大学の中西崇文教授も、「AIの本質は、試行錯誤の回数を圧倒的に増やすことにある」と指摘する。壁打ち相手としてAIを使うことで、人はより創造的な領域に時間を割けるようになる。

AIが台頭する時代において、AIが得意とする処理や分析はAIに任せ、人は相手の意図を汲み取る力や関係性を築く力など、“人ならでは”の価値に注力すべきなのだ。

「私たちはAI時代の環境の変化を積極的に受け入れ、テクノロジーに精通し、柔軟に対応できる主体的で適応力の高い人財を『未来対応型の働き手』と定義しています。重要なのは『未来対応型の働き手』は採用の時点での能力にとどまることなく、組織の環境や支援によってより高い能力を発揮できるということです。ビジネスリーダーは未来対応型の人財育成をしっかり推進していくことが重要だと考えています」

カテゴリーの壁を越える「未来共創人財プロジェクト~Future Talent Project~」

日本が直面する人財不足は、特定の層を増やせば解決する問題ではない。地方、都市、業界を問わず、構造的に労働力が減少しているからだ。そこで同社が打ち出したのが「未来共創人財プロジェクト~Future Talent Project~」だ。

このプロジェクトでは、外国人財、デジタル人財、地方創生人財といった、これまで個別に扱われてきた人財カテゴリーを横断し、掛け合わせて「未来共創人財」という新しいコンセプトを提示している。

「人財を部分最適で扱うのではなく、一人ひとりの経験やスキルを横断的に生かせる構造をつくる。どのようなキャリアを構築し、どう活躍してもらうことができるかを重視し、社会と企業を共につくる主体として人財を位置づけ直す。その思想が、このプロジェクトの根幹にあります」

人財施策を束ねて考えることは、経営にとって単に「打ち手を増やす」ことではない。事業戦略を描いたあとに人財を当てはめるのではなく、経営の最上流から、人財やAIをどう位置づけるのかを明確にする。その姿勢こそが、戦略の成否を左右する。

AIが台頭する時代において多様な人財が強みを生かし、未来に対応できる人財へと成長できる土壌をつくること。それが結果として、企業の競争力を高め、日本全体の持続的な成長につながる。

「私たちが掲げる『未来共創人財プロジェクト~Future Talent Project~』は、アデコ一社の挑戦にとどまるものではありません。人財が躍動し、多様な人が力を発揮できる社会をつくることは、“Making the future work for everyone”という私たちのパーパスそのものなのです」

平野氏の言葉は、日本企業への強い問いかけでもある。人財をどう捉え、どう共に未来を描くのか。その覚悟が、2030年を生き抜く企業の分かれ道となる。

※ Adecco Groupが日本を含む世界31カ国21業界の37,500人の働き手を対象に行った年次調査「Global Workforce of the Future 2025