企業における顧客接点のデジタル化が加速し、会員証や予約・注文など日常的な行動が急速にオンラインへ移行している。それに伴い、多様な導線をどう設計し、どう使い分けるかが企業にとって課題となっている。こうしたなか、自社アプリとの併用はもちろん、アプリを持たない企業にとって顧客基盤拡大とLTV向上を両立できる手段として注目を集めているのが、LINEミニアプリだ。2025年11月末時点でサービスリリース累計数27800件を突破、MAU(月間利用者数)約1750万人へと成長し、デジタル接点の再構築を迫られる企業の新たな選択肢として存在感を高めている。LINEヤフー株式会社LINEミニアプリ事業開発のユニットリードである谷口友彦氏に、導入の価値と、既存自社アプリを生かした共存戦略を聞いた。

ユーザーが求めているのは“無理なく使える”デジタルアプリ

――デジタル化の加速を受け、ユーザー行動にも大きな変化が現れています。今後、企業にはどのような対応が求められているとお考えですか。

【谷口】社会全体で利便性が求められるようになり、ユーザーの行動は大きく変わりました。財布を持たずスマホだけで移動する人も増え、あらゆる行動がデジタルに移行しています。決済だけでなく、飲食・小売・美容などの事業者では会員証や順番待ち、予約などの機能についてもデジタル化が進んでいます。紙やアナログ運用だけでは、今のユーザーの期待に応えられない場面も増え、エンゲージメント向上のためにも、企業は新たなデジタル接点の創出が重要な課題となっています。

谷口友彦(たにぐち・ともひこ) LINEヤフー株式会社 コーポレートビジネスドメイン 経営企画・事業開発SBU ミニアプリ事業開発ユニット ユニットリード
谷口友彦(たにぐち・ともひこ)
LINEヤフー株式会社
コーポレートビジネスドメイン 経営企画・事業開発SBU
ミニアプリ事業開発ユニット ユニットリード

――“新たなデジタル接点”として、近年LINEミニアプリを導入する企業が増えています。導入が増えている背景も含めて、理由を教えてください。

【谷口】企業とユーザーの接点が多様化する中で、LINEは重要なコミュニケーション基盤として存在感を高めています。その中核となるのが、日本国内で月間9900万人以上(※2025年9月末時点)が利用するLINE上で、企業がユーザーと日常的に接点が持てるLINE公式アカウントです。多くの企業で活用が進んでおり、高いリーチと豊富な機能を備えていますが、より精度の高いコミュニケーションを行う際には、セグメント配信の設計や運用に工夫が求められる場面もあります。

一方、自社アプリはダウンロードや初期登録の負担が大きく、店頭でアプリダウンロードを断った経験があるユーザーが約7割(※)にのぼるなど、普及という点でいくつかの課題があります。

※ マクロミル・インターネット調査(2024年8月実施/スマートフォン利用者、且つLINEアプリ利用者を対象/サンプル数1488)

こうした状況を受けて注目されているのが、LINE内で動作するWebアプリケーション(アプリ内アプリ)、「LINEミニアプリ」です。ダウンロード不要で即時に利用でき、企業のオウンドチャネルと連携して、必要なユーザーデータを適正に活用できます。例えば、注文商品のでき上がり通知や来店リマインド通知は、LINEミニアプリの通知機能で実現でき、さらに「3カ月来ていない人だけに再来店を促す」「お気に入り商品に近い新作情報を届ける」などのメッセージ配信は、LINEミニアプリで取得したデータを活用して、LINE公式アカウントから行うことができます。このように、LINEミニアプリとLINE公式アカウントを組み合わせることで、精度の高いCRM配信(顧客データを使った配信)が可能となりました。

また、LINEミニアプリで接点を持つことで友だち追加が自然に進み、LINE公式アカウントでの情報発信やコミュニケーションにもつながります。さらに、LINEミニアプリ経由で友だちになったユーザーは90日後の定着率が85.1%(※)と高く、一定期間にわたり接点を維持しやすい傾向があります。LINE公式アカウントが“つながる基盤”、LINEミニアプリが“行動を促す導線”として補完し合うことで、より強い顧客関係を築ける仕組みになっています。既存の自社アプリがブランドの世界観や顧客ロイヤルティ醸成の場だとしたら、LINEミニアプリはユーザーの行動を促すための最適な手段として活用の幅が広がっています。

※ LINEヤフー自社調べ:2024年1月以降に新規フォロワーとなったユーザーを対象に集計(ブロック解除ユーザーを含む)

LINEミニアプリの特徴
ユーザーの生活のあらゆるニーズに対応するサービスを、LINE上で提供できるのが「LINEミニアプリ」。

ユーザーの幅が広がり、顧客基盤の多様化も実現

――数あるデジタル接点の中で、なぜLINEミニアプリがここまで利用されるのでしょうか。

【谷口】会員証や予約、注文、決済といった日常行動に直結する機能を、ユーザーが迷わず利用できるように設計できる点が大きいと思います。LINEミニアプリは、ユーザーが行動しようとする、まさにその瞬間にアプローチできる点が強みです。

例えば「今から予約したい」「注文したい」「ポイントを使いたい」と思ったときに、店頭QRコードやGoogleマップ、ホームページ、LINE公式アカウントなど、どの入り口からでもシームレスにアクセス可能です。ダウンロード不要ですぐに利用できるため、ユーザーは迷わず行動に移せます。そのため、単に機能を導入するだけではなく、「ユーザーはどの行動でつまずいているのか」「どの場面をデジタル化すると最も価値が生まれるのか」といった行動導線そのものを見極めて設計することが重要になります。

また、LINE公式アカウントからのメッセージに対する開封率は予約や注文といった“目的行動”を伴うLINEミニアプリ経由が他の経路と比べて最も高い傾向にあります(※)。LINE公式アカウントのメッセージと連動することで、「通知を見てすぐに操作」というアクションにつながりやすい。こうしたユーザーはブランド理解や行動意欲も高く、良質な顧客になりやすいため、企業にとっても導入メリットが高いといえます。

※ LINEヤフー自社調べ:2024/5~2025/4 LINE公式アカウント管理画面経由配信実績

――自社アプリを持つ企業がLINEミニアプリを併用することで、どのような効果が生まれていますか。

【谷口】スターバックスさんでは、モバイルオーダーやStar(スター)をためるといった体験をLINEミニアプリから手軽に始められるようにしたことで、自社アプリを持たないライト層にも接点が広がり、スターバックス® リワード(※1)会員1800万人のうち約25%にあたる約440万人が、LINEスターバックス カードを保有するまでに成長しています。また、この440万人のうち約40%がMy Starbucks(※2)と連携しており、LINEスターバックス カードでためたStarを特典と交換するなど、自社アプリや物理カードと共通の会員情報として、シームレスにサービスを利用できます。同社がLINEミニアプリと自社アプリの両方を活用し、ユーザーが“自分にとって心地よい方法”を選べるようにしていることが、結果として全体のエンゲージメント向上につながっている好例だといえます。

※1 スターバックス® リワード:スターバックスでの体験がもっと特別になるロイヤルティプログラム
※2 My Starbucks:スターバックスをより楽しむための会員サービス

また、中川政七商店さんも、LINEミニアプリをきっかけに大きな成果が生まれています。デジタル会員証をLINEミニアプリ化したことで、店舗での提示や新規登録がスムーズになり、導入後は会員登録率が3倍に向上しました。普段から使い慣れたLINE上で完結するため、ユーザーにとって負担が少なく、店舗スタッフも案内しやすくなったことが後押ししています。さらに、その接点がECにも波及し、LINE公式アカウント経由のEC売り上げは導入前と比べて8倍に伸びています。LINEミニアプリを導入したことで店舗とECの往来が生まれ、コミュニケーションと購買の両面で成果が出ている好例だといえます。

企業が注力すべきは、ユーザー行動を起点としたデジタル設計

――LINEミニアプリを導入したくても、費用や人材不足で二の足を踏んでいる企業も多いのではないでしょうか。

【谷口】確かに、費用面や人材不足を理由に、LINEミニアプリの導入をためらうケースもあると思います。ただ、LINEミニアプリについては、最初から大規模な開発を前提にする必要はありません。iOSとAndroid用の区別も必要ないので、自社アプリ開発に比べて低コストで、DXのスタートとしては取り組みやすいといえます。

また、実装後の改善や機能拡張がしやすく、ユーザー行動にあわせた運用設計が可能なのも特長です。必要な情報を適切なユーザーに届けられるため、CX(顧客体験価値)の底上げにも有効です。デジタル接点の最適化が競争力に直結する現在、対応の遅れが機会損失につながる可能性も考慮すべきです。

――今後、企業はどのような視点でデジタル接点を設計すべきでしょうか。

【谷口】企業が今後注力すべきは「アプリ起点」ではなく、ユーザーの行動を起点にデジタル接点を再設計することです。ユーザーがどの瞬間に課題を抱えるのかを見極めることが重要です。LINEミニアプリは、その“行動の瞬間”に介入でき、店頭・EC・SNSなど多様な導線に自然に組み込めます。

LINEミニアプリが行動導線として機能する中で、アクセス経路も広がっています。すでに、かざす・触れるだけでLINEミニアプリを立ち上げられる「LINEタッチ」を提供しており、日常の導線から素早く必要なサービスへアクセスできます。

「LINEタッチ」は、専用NFCタグにスマートフォンをタッチするとLINE公式アカウントやLINEミニアプリに誘導できるサービス。
「LINEタッチ」は、専用NFCタグにスマートフォンをタッチするとLINE公式アカウントやLINEミニアプリに誘導できるサービス。

さらに2026年2月から順次、LINEアプリ内のウォレットタブがミニアプリタブに刷新します。LINEミニアプリの主要な入り口として再設計され、アクセス性も高まります。

新しい「ミニアプリタブ」では、ユーザーが過去に利用したLINEミニアプリの履歴に加え、よく利用されているLINEミニアプリも表示されます。
新しい「ミニアプリタブ」では、ユーザーが過去に利用したLINEミニアプリの履歴に加え、よく利用されているLINEミニアプリも表示されます。

一方で、ブランド体験やロイヤルティの醸成には自社アプリが有効に機能する場面もあります。企業はこうした特性を踏まえて、両者をどう併用していくかが、今後の競争力に影響していくと考えています。将来的には、LINEミニアプリを“行動起点のインフラ”としてさらに進化させたい。生活者の行動に自然に溶け込み、企業にとっても成果につながる導線をつくれるよう、取り組みを深化させていきます。

*LINEアカウントと紐づいた行動データの取得・活用にはユーザーの許諾が必須となります。