10人でひとつの“家”に住む
叡智学園の特徴はIBだけではない。島にあることを存分に生かした授業も行っている。一般的な学校の「総合的な学習の時間」に該当する「未来創造科」という科目も叡智学園の特徴だ。
「『WELL-BEING 幸せ』『ENVIRONMENT 環境』『PEACE 平和』という大きな3つのテーマについて、専門家のレクチャーを受けたり、座談会を実施したり、あるいはフィールドワークなども組み合わせながら、個々人が自分のプロジェクトを立ち上げ、運営していく科目です。
ある生徒のケースでは、叡智学園のある大崎上島の未来をより良くするために、幼稚園や小中学校、さらに地域の施設を巻き込んだイベントなどを立ち上げていました。他にも、広島市内の平和記念公園にあるレストハウスで、自身の作品を展示してもらったり、自分が作ったリーフレットを基にプレゼンしたり、活動の内容は基本的に自由です」(吉村校長)
なにより全寮制というのも大きな特徴だろう。叡智学園では寮を重要拠点として考え、かなりの注意を払って運営しているという。思春期の子どもが全国から集まるので、大小さまざまなトラブルが起きる。とはいえ、寮は完全個室ではなく、10人で一つの“家”をあてがわれている。そこには、自分を律しかつ共感力を育みながら成長してほしいという学校側の願いが感じられる。
「なにがなんでも東京大学」とは違う
1期生でいきなり、国内だけでなく国外大学への進学実績を作った叡智学園だが、もともと入学時から海外を目指している学生は3割くらいにとどまる。1期生の進学先も、最終的には国内外で半々くらいだったという。
「一般的な受験でよくある目標校、妥当校、安心校……といった形ではなく、あくまで生徒たちの『やりたいこと』と『それをどこでなら実現できるか』から、見定めていきながら、志望校を定めています。もちろん、学校として生徒に必ず海外大学を受けてほしいとしているわけではありません。当初は海外志向がなかったけれど学校で学ぶうちに、先に話したような県出身の『普通の子』が海外の名門大に合格しています。
従来型のいわゆる詰め込み教育と比較すると、IBはどうしても主体性や探究心を伸ばすモデルですから、知識量では負ける部分もあります。その点で、なにがなんでも東京大学など難関校を目指すといった、従来式の受験とは異なる価値観を持っているといえるかもしれません。もちろんこれは詰め込み教育とIBのどちらが良い悪い、という話ではないことは付言させてください」(吉村校長)
そもそもIBでは偏差値という尺度を用いず、国内でも海外でも、基本的にはIBを使った入試を受ける形になる。そのため、保護者の中には「これで大丈夫なのか」と心配する人もいるという。1期生の実績が出たこともあり、今後は着実に進学実績を作りながら、保護者たちにもIBについての説明を積極的にしていくと吉村校長は意気込む。
「1期生の実績が出て、これまでやってきたことは間違いではなかったという確信を持てましたし、保護者の皆さんへの説得材料にもなるはずです。また、海外に進学したOBとOGは、生徒にとって留学や研修で頼れる先輩にもなっていきます。こうした好循環をどんどんと広げていきたいですね」(吉村校長)



