小中学生向けオンライン学習サービスを展開するMined(マインド)。同社が提供する「ちゃんと身につくプログラミング(ちゃんプロ)」は、初心者でもわずか2カ月でPython(パイソン)が書けるようになるという、本格的なテキスト言語学習プログラムだ。米マサチューセッツ工科大学(MIT)や東京大学での学びをもとに、AI(人工知能)時代を生き抜く基礎思考力を育んでいるMined創業者の前田智大氏が、子どもが自ら学びたくなる学習プログラムについて語った。

小中学生がテキスト言語を楽しく学ぶことはできるのか

――小中学生向けに、テキスト言語を使った本格的なプログラミング学習を展開されています。

【前田】Minedは、子どもたちが自ら「学びたい」と思える場づくりを目指しています。最初は先生が自由に授業を開き、子どもたちが興味を見つけられる場になるようなマーケットプレイス型の学習サイト「スコラボ」を運営していました。しかし続けていくうちに、そもそも学び自体を面白くないものと片付けてしまう子が多いことに気づいたのです。そこで現在は、今の時代に重要なスキルであるプログラミングを、興味がない子でも楽しく学べるようにしようと考え、「ちゃんと身につくプログラミング(ちゃんプロ)」に特化して、サービスを提供しています。「ちゃんプロ」には「スコラボ」で得た学びを楽しくする知見をふんだんに盛り込んでいます。

プログラミングは、論理的思考や創造力を育てる最適な教材です。私たちはテキスト言語のコードを書く体験が学びの喜びを最大化すると考え、小学生からPython(※1)やJavaScript(ジャバスクリプト)(※2)を書けるプログラムを展開しています。

前田 智大(まえだ・ともひろ)
前田 智大(まえだ・ともひろ)
株式会社Mined 共同創業者 CEO
1995年生まれ。大阪府和泉市出身。
灘中学・高校から米マサチューセッツ工科大学(MIT)に進学。
2018年MIT工学部電子工学科卒業。
2020年MIT Media Lab修士課程を卒業後、株式会社Minedを起業。小中学生を対象としたオンライン教育サービス「スコラボ」を経て、2024年より「ちゃんと身につくプログラミング」を開始。

――ビジュアル言語ではなく、テキスト言語にこだわる理由は何ですか。

【前田】Scratch(スクラッチ)(※3)のようなビジュアル言語は、テキストコードを入力する代わりに、図形をドラッグ&ドロップするだけでプログラムが作成できます。プログラミングに触れる最初の入り口としては非常に優れていますが、いわば“ミールキット”のようなもの。材料は揃っても、自ら素材を選び味付けを考える経験は得られません。これに対し、テキスト言語の学習は材料の買い出しから、メニュー、調理までゼロから自分で作り上げる料理に似ているので、より自分の頭で考える力が養えます。

また、実社会ではPythonやJavaScriptを中心に、テキスト言語が広く用いられています。「Scratchはすでに一通り学んだので、次のステップに進みたい」という学習意欲の高い生徒にとっても、テキスト言語の学習により、学んだことが実社会につながるという経験を積むことができます。

※1 Python(パイソン):シンプルな文法で初心者にも学びやすいテキストベースのプログラミング言語。
※2 JavaScript(ジャバスクリプト):Pythonと同じテキストベースのプログラミング言語。Webサイトやアプリ開発に広く利用されている。
※3 Scratch(スクラッチ):アメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボが開発したビジュアルプログラミング言語。ブロックを組み合わせることで、簡単にプログラムを作ることができる。

――小中学生がテキスト言語を学ぶのは難しいのではないでしょうか。

【前田】確かに、テキスト言語のプログラミング学習は簡単ではありません。私自身、高校時代に独学で習得しようとして、非常に苦労したことを覚えています。特に、プログラミングの学習には本質的ではない、エラーの修正にかなりの時間・労力を割く必要がありました。「ちゃんプロ」では、AIでエラーを検出・修正するアドバイス機能により、学習の障壁を取り除いています。

また、そもそも子どもたちを見ていると、学習を始めるきっかけづくりやモチベーション維持のためには、先生が好き、友達や仲間がいる、たまたまいい点数を取れた、などのポジティブな感情が重要であることがうかがえます。そこで「ちゃんプロ」では、子どもがオンライン授業を楽しめる仕組みやシステム設計を行っています。例えば、講師陣は“先生”というよりは“頼れる近所のお兄さん”のような立場で、仲間と一緒に学ぶ楽しさが体感できるような場づくりを大事にしていて、私も生徒から“ともちゃん先生”と呼ばれています(笑)。

ライブ感を重視して始めた「山分けクイズ」が生徒たちに大好評

――オンライン学習だと集中力が続かないという悩みをよく聞きます。なぜオンライン方式なのですか。

【前田】プログラミングを学ぶのに、オンライン学習は相性がいいからです。「ちゃんプロ」では、授業中に先生が解説したプログラムをその場で実際に動かせる仕組みがあり、試行錯誤して書いたプログラムを動かして、「やった、動いた」という達成感を得ることができます。また、授業中の演習では、解答データの蓄積によりどこまで理解できてどこから理解できていないかを正しく把握することができます。これにより、生徒の理解度に応じて個別の演習問題を出し分けることも可能です。

さらに、当社では授業の途中で生徒たちが飽きないよう、Zoomではなく、独自開発のライブ配信システムを活用しています。私たちは、生徒と先生がチャットで交流したり、クイズで盛り上がったりするなどの「ライブ感」を重視しています。特に生徒たちに人気なのが「山分けクイズ」。正解するともらえる「ダイヤ」という成果が、正解者に山分けされる仕組みで、「オフラインより楽しい」と盛り上がっています。

対面授業のよさをライブ配信システムで補いながら、授業そのものを楽しめる工夫をさまざまに取り入れています。他のプログラミング教室の中で、「ちゃんプロ」が最も楽しい学習体験を提供していると自負しています。

山分けクイズ
演習問題
授業中の「山分けクイズ」(上)、演習問題(下)の様子。

――具体的に「ちゃんプロ」の学習内容を教えてください。

【前田】「ちゃんプロ」のサービスには、入門コース(2カ月)、初級コース(6カ月)、中級コース(8カ月)があります。2026年1月には、その先の応用コース(8カ月)を開講する予定です。

入門コースでは、初歩の文法と考え方を定着させ、じゃんけんや数当てゲームのような簡単なプログラムをPythonで書けることを目指しています。また、プログラミング能力検定(プロ検)レベル1に合格する力を養います。この入門コースは、基礎と面白さの両方を体験してもらうため、無料で開放しています。これまでに、延べ約1500人が無料コースを体験し、3分の1の約500人が継続受講へと進んでいます(2025年9月末時点)。

初級コースでは、基本文法を体系的に習得し、AIと会話できる簡単なアプリなども作成できるようになります。2025年度から共通テストに加わった「情報I」のプログラミング出題範囲を扱い、プロ検レベル4合格を目指すことができます。

中級コースでは、実際にゲーム開発に取り組みながら、プロ検レベル5〜6に相当する力を養うことで、抽象的なコードを自分の手で動かす楽しさがわかるようになっていきます。

そして応用コースでは、プログラミング思考をさらに深めるために、別言語のJavaScriptを学びます。Webサイト制作を通じてインターネットの仕組みと情報リテラシーを学習します。応用コースまでで、「情報I」の全出題範囲を学習できます。

各コース
各コースそれぞれ、プログラミング能力検定(図上:プロ検)のレベルに到達できるカリキュラムになっている。

プログラミングを学ぶことで身につく力とは

――「ちゃんプロ」は「MIT&東大式」とあります。どんなスタイルなのでしょう。

【前田】学習スタイルの根本には、「真面目に詰め込みすぎるより、学びを遊びに変えた方がずっと身につく」という私自身のMIT時代の実体験があります。MIT時代にコンピューターサイエンスの授業を通じて学んだコアの部分を、子どもたちが楽しんで学べるようにデザインし、子どもたちが主体的に学びたいと思える場をつくっています。

ここにさらに、共同創業者兼COOの趙 慶祐ちょう けいゆうが東大で体得した、仲間同士で互いに刺激し合い、切磋琢磨する文化を融合し、小中学生が学びに夢中になれる環境を提供しています。「ちゃんプロ」では、自身のプログラム作品を他の生徒たちに共有することができ、他の生徒の作品に「いいね」をつけることができます。また、授業内では定期的に優れた作品を表彰し、みんなで褒め合います。仲間の工夫に触れる体験が、「次は自分も」という動機づけを生み、クラス全体で意欲的に作品作りに向かう雰囲気を醸成しています。

学習は、真面目なだけでは続きません。私たちの授業では、教科書の知識を詰め込むのではなく、「先生をダイエットさせるプログラム」など、遊び心のある課題を交えながら、自然とプログラミングが学べるようになっています。

――プログラミングを学ぶことで、どんな力が身につくのでしょうか。

【前田】コンピューターサイエンス思考といわれる、問題を分解してどのようなロジックでどう組み立てていくかを考える力です。テキスト言語を学習することは、単に言葉の暗記とは異なる、思考力・分析力強化に役立ちます。さらには、アイデアを形にする想像力や仲間と協力して成果を共有する力も育めると考えています。

近年は、AIの進化によって、かなりのプログラミングをAIでまかなえる時代になりました。AIがコードの95%を書ける時代もすでに来ていますが、残り5%の“なぜこのプログラムが正しいのか”を判断し、方向づけることはまだ人間にしかできない作業で、むしろ正確なプログラミングの技術を有していなければ行うことができません。AIの出力をそのまま信じるのではなく、本当に正しいかどうかを見極めていく能力は、小中学生の子どもたちが将来、社会に出て行く時に必要な力です。

例えばMITでは最近、生物×プログラム、経済×AIといった複合領域の専攻も増え、世界の最前線ではプログラミングが多くの領域に浸透しています。子どもの柔軟な吸収力が高いうちにプログラミング学習を開始することで、将来の学びの土台が強くなると考えますが、これは決して「早ければいい」ということではありません。理解度とパソコン操作のスキルを考えると、小学校中学年くらいから始めるのがよいのではないかとみています。

――最後に、今後の展望を教えてください。

【前田】「ちゃんプロ」は、日本全国の子どもたちに楽しく本格的なプログラミングを学べる場所としてナンバーワンを目指しています。また、アメリカでも「Bright Coders」という名前で「ちゃんプロ」と同様のプログラミングスクールを展開しています。サービス提供を始めたばかりですが、初級編には60人が参加し、プログラミング先進国においても質の高さで選ばれている感触があります。国境を超えて、未来を担う子どもたちにとって大事な思考力を楽しく身につけられる場をつくりたいと考えています。

プログラミングは、理系的思考の“足腰”を鍛える基礎訓練のようなものだと私は思っています。AI時代に求められるのは、与えられた答えを覚える力ではなく、自ら課題を見つけ、論理的に解を導き出す力。私たちは、「ちゃんプロ」を通じて、思考の土台を育む学びの場を、さらに広げていきたいと考えています。