1974年生まれ、米国出身。米国ペンシルべニア大学でエンジニアリングの理学士号、英国オックスフォード大学で理学修士号、米国デューク大学で経営学修士号を取得。2025年6月、同社代表取締役社長就任。同年10月より米国研究製薬工業協会(PhRMA)の在日執行委員会(JBEC)の副委員長も務めている。
J&Jは1961年から医療用医薬品事業を展開しており、ヘルスケア業界のグローバルリーダーとしての役割を担ってきました。これまで、数々の革新的な医薬品を世に出してきましたが、その背景には、世界トップクラスの研究開発力と、医療の未来を切り拓くイノベーションへの飽くなき探求があります。例えば2024年はJ&J全体で約170億ドル(約2兆5000億円)を研究開発に投資しました。25年は日本で新規モダリティ(治療手段)を含む14件の上市を見込んでいます。
この、かつてない上市数は、当社が次の成長期に入った証しであり、血液がん、固形がん、免疫疾患や希少疾患など、治療が難しいとされている疾患において、革新的な治療薬を持続的に提供していく意志の表れでもあります。
未解決の医療ニーズに応えることは、簡単なことではありません。しかし私たちは、細胞治療、二重特異性抗体、三重特異性抗体、経口ペプチドなど、世界最先端の新規モダリティをいち早く提供することで貢献したいと考えています。
私は03年にJ&Jに入社し、米国の他、アジア各国で医療用医薬品と医療機器両方の事業に携わってきました。21年に来日してからは、J&J メドテックのサージェリー事業本部長として事業の成長をけん引し、組織開発と人材育成にも力を注いできました。
社長に就いた今年は、当社の今後の事業成長を加速させ、新たなステージに飛躍するために重要な転機となる年です。日本での事業開始から50周年を迎える28年に向けて「業界をけん引する強靭なバイオ医薬品企業になる」という目標を掲げており、実現には自信を持っています。
日本の医療の課題解決にも貢献
私が社長として成し遂げたいことは、大きく二つあります。一つは、事業成長を加速させること。そしてもう一つは、日本の患者さんが革新的な医薬品の恩恵を確実に享受できる環境を実現することです。
日本の医療環境は、素晴らしいところがたくさんあります。国民皆保険制度が整備されており、医療費の償還(提供した医療サービスに対する、保険から医療機関への支払い)も非常に早い。予防医療を重視している点にも感銘を受けています。
一方で日本には課題もあります。海外では使用可能な治療薬が日本では承認されていないため使うことができない、いわゆる「ドラッグ・ラグ」や「ドラッグ・ロス」は年々深刻化しています。J&Jをはじめとする多くの製薬企業は今、より病気の予防効果や治療効果が高い、新規モダリティの開発と提供にシフトしつつありますが、日本の医療制度は、こうした世界最先端の治療の価値をしっかりと評価し、価値に見合った導入条件を実現する環境を整備する必要があるでしょう。
日本では、人口1人当たりのGDPの、わずか0.4%しか革新的な医薬品に使われていません。これは米国の半分のレベルです。日本が医療先進国であり続け、世界標準の医療を実現するためには医療の“コスト”ではなく、“価値”に投資する政策へ転換していく必要があるのではないでしょうか。患者さんが1分1秒でも長く生きられるようになれば、本人や家族の充実した時間の実現とともに、社会にとっても労働力の確保や経済活動の活性化が見込めます。私は、製薬企業のリーダーとしてイノベーションを世に出すだけでなく、政府や医療従事者、患者コミュニティーなどと連携しながら、国民の健康寿命の延伸と、将来的には、複雑な疾患の治癒を実現できる医療環境を構築していきたいと考えています。
私はリーダーとして、不可能と思われるほどに高く野心的な目標を設定することが多々あります。それは、患者さんと医療の発展に当社が持続的に貢献していくためでもあります。これまで、高い目標がチームの潜在能力を最大限引き出し、不可能を可能にした瞬間を何度も目にしてきました。
社内外の関係者との対話にも力を入れています。社長に就任してからは、稼働時間の40%を執務室の外で過ごしています。営業担当者の医療施設訪問に同行したり、工場やサプライチェーンに携わる社員と高い品質の製品を提供するための方法を議論したり、全国各地で社員との座談会も行っています。革新的な医薬品を日本にもたらすための基盤を作るべく、学会や患者さん、政策関係者とも建設的な議論と協業を進めています。
今後、テクノロジーとヘルスケアの融合に拍車がかかり、患者さん個々の遺伝子タイプや体質に合わせた個別化医療もさらに発展していくでしょう。こうした中、ヘルスケア企業は新規モダリティを継続的に提供できるかが命綱となります。私たちは、未来の医療を創るパイオニアとして、挑戦と革新をテーマに次世代のイノベーションをリードし続けたいと考えています。
1978年ヤンセン協和株式会社として発足。2001年J&J全額出資会社へ移行。02年ヤンセンファーマ株式会社に社名変更。24年より、日本におけるJ&J医療用医薬品事業の企業ブランド名をJohnson&Johnson Innovative Medicine に刷新。