「シャキシャキの音を聞かせて」は効果的

我々の苦悩を和らげるかのように、宮里先生は微笑んだ。

「お2人はまだまだ大丈夫ですよ。ご飯をお子さんと一緒に食べているわけですから。私が子どもの食事でもっとも大切だと思っているのが、一緒に食事して『おいしいね』と一緒に味わってくれる人がいること。それは子どもにとってとても幸せな体験です。なかには、先に子どもに食べさせて、自分たちの食事は子どもが寝てから、というご家庭も少なくありません。忙しいなかで、子どもの食事を優先しようとするとそうなってしまうのかもしれませんが、親子がなるべく一緒に食卓を囲んだ方がいいと思います」

宮里先生の聞き取り調査は、Tくんに移行した。

「Tさんのお子さんも野菜は食べないんですか?」

――ちょっと食べますね。

「納豆は?」

――大好きです。

「それはよかったですね。枝豆は?」

――枝豆も大好きです。上の娘はずっとキュウリが嫌いだったんです。でも保育園の先生が「Aちゃん、シャキシャキの音、聞かせて」と言ったら、食べられるようになったんです。

「素敵な先生ですね。シャキシャキの音が、きっかけのひとつになったんですね」

宮里暁美さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
宮里暁美さん

「おいしいからもらっちゃおう」と親が食べて見せる

Kも保育園でキュウリを食べた経験があったはずだが、家では手を付けない。納豆だけではなく、枝豆も一度だけ口に入れたものの、すぐに吐き出してしまった。食わず嫌いなのだ。納豆も枝豆もキュウリも苦にしない子を持つTくんに、私は軽く嫉妬した。

そんな私の思いをよそに宮里先生は話を続ける。

「親は『バランスよく、バランスよく』と言いたがりますが、まずは子どもの前で『おいしい』『おいしい』と食べればいいんですよ。それで『残さず食べなさい』ではなく『一口食べてみる?』と誘ってみる。食べないようなら『おいしいからパパがもらっちゃおうかな』と子どもに声をかけて、実際に食べて見せる。そんな親の姿を見れば、子どもはちょっと口を付けてみようかなという気持ちになるんです」

子どもと一緒に食卓を囲んで、会話する。それもきっかけづくりのひとつなのだろう。

「でも、焦りは禁物です。子育てに『こうすればこうなる』という単純な計算式はありません。食事だってそう。たくさんのきっかけをつくれば、野菜や苦手な物を食べられるようになるかもしれませんし、そうならないかもしれない。大人だって、明日からすぐ嫌いな物を食べられるようになるなんてこと、まずないじゃないですか」

宮里先生の言葉に深く納得した。Kがすぐに野菜を食べる秘策があるのなら、試してはみたい。しかし、自分の人生を振り返っても、人間はそんなに単純ではないと実感している。すべての子が野菜嫌いをたちまち克服できるような方法があるなら、すでにみんな実践しているに違いない。

気が楽になった。とりあえず、Kは、糸こんとレンコン、エリンギは食べる。それでいいじゃないか。〈たいていの人間は食物の好ききらいがある〉のだから。