さまざまな生成AIサービスが競争を繰り広げているなか、「AI PC」の開発競争も激化している。そのなかで特に注目されているのが、日本HPによる次世代AI PC「HP EliteBook X G1a 14」と「HP EliteBook X G1i 14」だ。次世代AI PCを導入することで仕事のパフォーマンスはどのように向上するのか、同社パーソナルシステムズ事業本部クライアントビジネス本部 CMIT製品部長の岡宣明氏と、マーケティング本部コンシューマーマーケティング部長の梶間渉氏に聞いた。

会議の議事録やサマリーもAIが瞬時に作成
仕事のパフォーマンスを向上させる次世代AI PC

――AIが飛躍的に進化していくなか、近年はAI PCも登場しました。クラウドに依存せずに、本体に搭載されたNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)などの専用プロセッサーでAI処理をローカル実行できることが、AI PCの特長です。「2024年はAI PC元年」とも言われていたなか、日本HPでは次世代AI PCとして「HP EliteBook X G1a 14」と「HP EliteBook X G1i 14」を発売されました。従来のAI PCより機能が向上した点など、次世代AI PCの特長を教えてください。

【岡】まず、従来のAI PCのNPUよりも高性能のNPUを搭載することで、AI処理の幅を広げました。さらに、CopilotキーによりワンタッチでAIへのアクセスが可能になったほか、ハードウェアセキュリティを備えています。また、ユーザーの動作を学習する省電力設計により、長時間のバッテリー駆動を実現しました。

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HP EliteBook X G1i 14は最大48 TOPSのNPU、HP EliteBook X G1a 14は最大50TOPS~55TOPSを搭載。従来よりも早い速度でAI処理を可能にする(写真はHP EliteBook X G1i 14)

――具体的にはどのように仕事のパフォーマンスを上げてくれるのでしょうか。

【岡】まず、Copilotキーを押すだけで、AIアシスタントの支援を受けながらエクセルやパワーポイントを容易に使いこなせます。例えば、関数が不得意なユーザーでもAIの力を借りてエクセルで高度なデータ分析が可能になるのは大きなメリットです。そのほか、パワーポイントで資料を作成する際も、頭の中にあるイメージをAIが的確にビジュアライズしてくれるので、プレゼンのレベルがぐっと上がるのではないでしょうか。また、多くの人が活用しているのはメモ機能で、会議の議事録やサマリーもAIが瞬時に作成してくれます。

――出張やリモートワークといった場面では、どのように活用できますか。

岡 宣明(おか・のぶあき)
岡 宣明(おか・のぶあき)
株式会社日本HP
パーソナルシステムズ事業本部
クライアントビジネス本部 CMIT製品部長

【岡】従来のAI PCよりも軽量化しているので持ち運びやすく、かつ、消費電力も少ないので、長時間にわたって快適に作業できます。ポイントは、ユーザーが気づかないところでAIが常に「裏方」として働いている点です。例えば、PCをカバンに入れて持ち運んでいるときは余計な電力消費を抑え、取り出す直前には即起動できる状態に切り替える。あるいは、自宅やオフィス、外回りなど使用環境を学習してバッテリーを最適化してくれます。ユーザーは「なんとなく電池が長持ちする」「立ち上がりが速い」としか感じませんが、その背後には高度なAI制御が存在しているのです。

また、セキュリティ面ではHP独自のセキュリティチップがマザーボード上に搭載され、BIOSが改ざんされても自動的に検知・修復。量子コンピュータ時代における新しい脅威にも備える仕組みを整えています。追加アプリを導入しなくても、購入した瞬間からハードウェアレベルで守られているという点はビジネスシーンにおいて大きな安心材料となるでしょう。

働く人だけでなく、環境にも配慮された設計構造

――従来の業務効率化やセキュリティ強化に加えて、サステナビリティの観点も企業にとって重要になってきています。日本HPの次世代AI PCを導入することは、こうした環境面での取り組みや企業価値の向上にもつながるのでしょうか。

【岡】PCは、実はそのライフサイクルで排出される二酸化炭素の約8割を、製造段階で使ってしまうんです。だからこそ、設計の段階から環境負荷を下げることが非常に重要になります。HPでは法人向けPCにおいて、国際的な環境認証であるEPEATのゴールド認証取得を必須にしており、再生プラスチックも積極的に採用しています。

また、当社の調査でも「社会的責任を果たす企業から購入したい」と答えたお客様が76%にのぼるという結果が出ており、こうしたサステナビリティへの姿勢は確実に購買判断にも影響してきています。業務効率化やセキュリティ強化に加えて、次世代AI PCを導入することが企業の社会的責任やブランド価値向上にもつながるはずです。

――実際に、どのような企業、団体が次世代AI PCを導入していますか。

【岡】医療機関から金融業界、教育の現場まで、あらゆる業界で導入が始まっています。とはいっても、全体数はまだまだ少ないのが現状です。

個人的には、この状況に強い危機感を抱いています。というのも、アメリカではAIを経営判断や調査・分析レベルにまで活用していますが、日本では調べ物やメール検索止まりというケースが大半です。しかも、日本では旧世代のプロセッサーを搭載した廉価モデルを「コストを削減できる」という理由で購入し、それを5年ほど使い続ける企業も少なくありません。

企業の成長率という視点で考えたとき、次世代AI PCを活用する企業が多い国とそうでない日本とでは、国単位で成長率の差が開いていく可能性が高い。そういった意味でも、AI PCの導入は企業にとって重要な課題だと感じています。

「はたらく人に、こだわる自由を。」
日本HPがキャッチコピーにこめた想い

――国内の企業でAI PCの導入が遅れている要因については、どのように分析されていますか。

【梶間】日本は良くも悪くもコンサバティブで、新しいものを試す前に「完璧に理解してから」という文化があります。AI PCに関しても、実際に使えば業務効率やタイムパフォーマンスの向上につながるのに、最初の一歩を踏み出す心理的ハードルが非常に高い。だからこそ、私たちは「身近な便利さ」を伝えていきたいと考えています。

梶間 渉(かじま・わたる)
梶間 渉(かじま・わたる)
株式会社日本HP
マーケティング本部コンシューマーマーケティング部長

また、その結果はデータにも表れています。昨年春に実施した32カ国、約2.3万人を対象にした当社のグローバル調査では、日本のAI理解度は32カ国中最下位という結果が出ました。その理由としては、日本が他国と比べAI自体の普及が比較的伸びておらず、何ができるのかといった認知がまだまだ低いからではないかと感じられます。

一方で、理解が高い国ほど「AIに仕事を奪われる」という不安も高い傾向にありましたが、日本はそういったAIに対する不安はわずか25%ほどと、他国に比べこの点でも最下位なことが明らかになっています。

不安になりにくい傾向としては、さらにデプスインタビューを行った結果分かったことですが、「仕事は自分の信用と感性に基づいている」と位置づけて仕事をされている方が多いからではないかと思います。言い換えれば、こだわりをもって仕事をする、クラフトマンシップや誇りが強いからだと私は考えています。

――なぜクラフトマンシップや誇りが、AIに対する印象に影響するのでしょうか。

【梶間】先と同じデプスインタビューによれば、日本で働いている方は単純作業であっても、強い誇りやこだわりを持っている方が比較的に多いと感じます。それは、技術職や営業職のみならず、さまざまな分野の職種にも共通しています。そのマインド自体は尊いものですが、テクノロジーの進化を前提に考えると、こだわりを持つ人ほどAIを活用してさらに加速できる、という考え方にシフトする必要があると思います。

だからこそ伝えたいのは、AI処理の機能が拡充された次世代AI PCを使うことによって、よりこだわって働けるようになる、ということです。なぜなら、AIの守備範囲が広くなった分だけ、あらゆる職種や職位、経験値の人の働き方をサポートする相棒のような存在になってきているからです。「自分の仕事のこだわりを大切にできる」「効率化した時間で人生を充実できる」というメッセージを込めて、当社ではこの製品に「はたらく人に、こだわる自由を。」というコピーを添えています。

――「AI」という言葉だけで「使い方がわからない」「技術の進歩に追いつけない」と抵抗感を持つ人もいます。どんなことを伝えたいですか。

【梶間】AIの使い方が分からない、うまく使いこなせない、という不安からの抵抗感だけでなく、AIを積極的に仕事に活用していこうとした際に、少なからず従来の仕事の「やり方」そのものを見直したり変えたりすることに、抵抗を感じてしまう人もいると思います。しかしAIは、実はすでに日常生活に浸透しています。例えばWeb会議の背景ぼかしやノイズ除去もAIの機能です。そうした「気づかないうちに助けられている便利さ」を認識していただくことが第一歩かな、と考えています。

――最後にお二人から、あらためて次世代AI PCの魅力を教えてください。

【岡】次世代AI PCは、業務効率やセキュリティ、環境対応といった多方面の進化を同時に実現しています。従来のPCでは得られなかった体験をぜひ実感していただきたいです。

【梶間】一人ひとりの働き方や価値観に寄り添えることこそ、次世代AI PCの大きな価値です。こだわりを持って働ける自由が、より多くの人に届くことを願っています。