国内はもとより、アジア最大級(※)の運用資産残高を有する三井住友トラスト・アセットマネジメント。2025年10月1日より、新たなリーダーを務めているのが小林隆宏氏だ。インタビューで同氏がたびたび口にしたのは「変化に対して謙虚である」こと、そして「情報の共有化」というキーワード。これらの推進によって、どんな組織への進化を目指しているのか。「貯蓄から投資へ」の流れの中で果たしていくべき役割とは。展望を語ってもらった。
三井住友トラスト・アセットマネジメント
1986年設立。東京を本拠にニューヨーク、ロンドン、シンガポールなどに現地法人を構える、アジア最大級(※)の資産運用会社。「未来の可能性を拓き、真に“豊かな”社会を育む。」をビジョンに、時代にふさわしい「資産運用の新しいカタチ」を追求している。
小林隆宏(こばやし・たかひろ)
小林隆宏(こばやし・たかひろ)
1973年生まれ。慶應義塾大学大学院修了。旧郵政省、三井不動産を経て、2004年旧住友信託銀行入社。19年三井住友トラスト・アセットマネジメント経営企画部長、23年同社執行役員を経て、25年10月より現職。

当社は100兆円超の資産をお預かりしており、今回の社長就任に当たって、改めて身の引き締まる思いです。日本のリテールマーケットは新NISAの制度開始をきっかけとして、資産に関心を持つお客さまの層が広がり、貯蓄から投資への流れは大きく動き出しました。資産運用立国の実現を目指す国の後押しがある中で、皆さまの資産をより良い形で世の中に還流させ、社会全体を豊かにしていく。その新たなインベストメントチェーンを構築するコアなプレーヤーとして、資産運用会社には重要な使命があると考えています。

戦後の高度経済成長期から日本の年金制度を支えてきた三井住友トラストグループは、長期安定投資の道を切り開いてきた自負があります。だからこそ、われわれはさらに力を発揮して世の中に貢献していかなければなりませんし、その結果として、当社のサステナブルな成長にもつながっていくでしょう。引き続き魅力的な投資商品をお届けしていくことはもちろん、発行体の企業をはじめとするさまざまなステークホルダーの皆さまを投資の枠組みの中でインボルブし、共に成長していきたいと思っています。

「判断」することの積み重ねでマネジメント力を磨いてきた

事業環境や経済市況環境の変化が激しい今、当然ながらお客さまの声も変化しています。そうした状況に対して、まずは虚心坦懐に、素直に耳を傾け、しなやかに対応していくことが大切だと考えています。これは外部環境についてだけでなく、自社の組織運営に対しても同様です。「法人」とは、「人」、つまりは「生き物」です。例えば学生スポーツでも見られるように、ちょっとした環境の変化がプレイヤーのパフォーマンスの質を左右することがあります。これまで強みとしてきた自分たちの軸は大事にしつつも、それが環境変化とうまくマッチしない部分があるのであれば、内的な声にも謙虚に耳を傾け、必要に応じてリバランスを図ることを心掛けたいと思っています。

こうした点を踏まえて、私がイメージしている将来像は、個々が自信を持って自律的に動ける組織です。そして、その実現を支える上で最も大事なのは「情報の共有化」だと考えます。心理的安全性が守られ、一人一人が思い切って行動できるフラットな組織。役職員らと丁寧に対話し、私自身も学びながら、目標に向かってレベルアップしていくつもりです。

当社に入るまでに、私は行政機関やデベロッパーなど三つの組織を経験してきました。専門性が求められる資産運用の世界観とは、ある意味では真逆ともいえるキャリアを歩んできたわけです。ただ「それが故に身に付けることができた専門性」が、きっとあると実感しています。それは、さまざまなプロジェクトをコーディネートする力です。

20代の頃から、いろいろな専門家の方がいらっしゃる場に専門知識では及ばない私が加わり、皆さんの意見を聞いて、どんなタイミングで何を決めるべきか、多くのことを判断してきました。スペシャリストたちに全幅の信頼を置いて、いかにいい状態で活躍してもらう舞台を用意するか――自分が得意でない分野においても、仲間の能力を引き出すためのマネジメント経験を重ねてきたことは、今の私にとって大きな財産となっています。

業種は異なっても組織のモチベーションを高め、同じ方向に動かすという本質は変わりません。優秀な営業担当者がいたとしても一人で全てを達成することはできません。そこで、大きな目標を達成するためにおのずと仲間をつくり、経験を共有化し、より良いチームワークを追求していくので、自然と仲間とのコミュニケーションに対する意識が高まりますし、「情報の共有化」が欠かせなくなるはずです。それが、組織を強くするということだと思っています。

「原点」にフォーカスして長期分散投資の魅力を伝える

新NISAなどを通じて資産運用への関心が高まる一方、直近の株式市場の上昇もあり、主に外国株のファンドに資金が集中している部分も垣間見えます。期待リターンの高いアセットへの投資は自然なことですが、お客さまのリスク許容度には差異があり、その観点では複数の資産に分散投資するバランスファンドは重要な選択肢と考えています。

当社の主力ファンドの一つ「世界経済インデックスファンド」はグローバルの株式・債券に各国のGDPウエートで投資し、長期的な世界の経済成長を享受するファンドです。現在5000億円超の運用資産残高があり、積み立てでの投資も多く、長期分散投資の第一歩としてご支持いただいています。またインバウンドに着目した株式ファンドなど時代の変化を長期目線で捉えた商品のご提供や、金融リテラシー向上の取り組みにも注力していきたいと思います。

われわれに果たしてどれだけのことができるのか? 皆さんが期待しているのはその部分でしょう。長く投資を続けることが社会全体を育てていくことにつながる、そんな私たちと同じ思いで資金を預けていただける関係性を、深く、強く築いていきたいと思います。

※出典:ウイリス・タワーズワトソン社「The world’s largest 500 asset managers 2024」