退職したら、時間に追われることなく、旅行や趣味を思う存分楽しもう──。そんな悠々自適のセカンドライフを夢見ている人は多いのではないか。しかし20年、30年と続く退職後の人生を充実したものにするためには、相応の準備と心構えが必要だ。シニアライフアドバイザーの松本すみ子さんに、セカンドライフの最新事情を聞いた。

【心得1】
シニア世代は
時代のトレンドリーダー

松本すみ子●まつもと・すみこ
シニアライフアドバイザー
IT企業の広報などを経て、2000年5月に独立。有限会社アリアを設立する。団塊シニア世代の動向研究や、シニア世代に関する講演や執筆、シニアライフのアドバイスなどを行う。同世代の仲間たちと「NPO法人シニアわーくすRyoma21」を立ち上げ、シニア世代の社会参加、能力の活用を目指して活動している。

【松本】2006年ごろ、団塊世代の大量退職が始まるといって、シニア市場が注目を集めた時期がありました。しかし結果を見ると、盛り上がったのは市場だけで、当の本人たちはしらけっぱなし。それだけシニア向け商品と当事者の間の「お年寄り観」にギャップがあったということです。60歳を迎えた団塊世代は、いまだ身も心も若く、サービスの質やデザインにも敏感な人たち。老後の備えの重要性は分かっていても「元気なうちから病気や介護のことばかり考えられない」「いかにも年寄りじみたものを押しつけないでほしい」という思いが根底にあり、当時の商品開発はそこを十分に吸い上げられなかったのです。

団塊世代の退職を経て、日本のシニア像は一変しました。60代の趣味の大半は、ウォーキングやジョギング、登山などのスポーツ。それも軽く体を動かす散歩や体操にとどまらず、走行距離100キロを超えるウルトラマラソンに出場する人がいるほどです。パソコンやインターネットの黎明期をけん引した世代だけにITリテラシーも高く、多くの方がパソコンやモバイル端末を操り、自在に情報を入手しています。そんな元気な団塊シニア世代は、とても「お年寄り」の物差しでは測れません。

団塊シニアの人口は約600万人に達しており、彼らの意向は今後のトレンドを変えていく影響力を持っています。これからのシニアは、トレンドリーダーの役割を担っているのです。

【心得2】
知力を生かして
コミュニティビジネスを創出

【松本】体力、知力、気力に満ちている現在のシニアが求めているのは「やりがい」です。厚生労働省の調査によると、60歳以上の方に「社会貢献にどれだけ興味があるか」を尋ねたところ、60代の60%以上、60代の50%が「興味がある」と回答しています。身体は元気で、暮らしていくうえで当面の金銭面の心配もない──。そんな方たちにとって、自分が社会に役立っているという実感を得られる経験は、生きていくうえで何よりの支えとなります。

ましてや団塊シニアは、高度経済成長やバブル崩壊、長期不況など激動の時代を経験した世代です。ビジネスの最前線で培った知識を持った人材を使わない手はありません。すでに先進的なシニア世代は、地域の仲間と協力しながら、新たな社会貢献活動を始めています。

社会貢献といっても、楽しみながら事業を興すのが現在のシニア流。例えば、自動車が大好きなある男性は、定年退職後に福祉タクシー事業を一人で始めました。足腰の弱っている方のお宅や高齢者施設を巡ってチラシを渡すなど、地域で地道な営業活動を続けるうちに評判を呼び、従業員数10人、車両5台を有する会社に成長しています。また東京都調布市では地元のシニア仲間が中心となって、地域資源である調布飛行場に注目。大島などの伊豆諸島から空輸した新鮮な農水産物を、調布の飲食店や八百屋などに直売する町おこしを始めて成功を収めています。

これらの事例はいずれも、自分が生きる地域に向き合い、そこで暮らす仲間たちとつながることで生まれたコミュニティビジネスです。会社という社会を離れたとき、新しく生きる場をどこに求めるのかを考えてみると、それは地域でしかありません。近所に出かける場所がなく、会いたい人もいなくなれば、自然と家に引きこもりがちとなり、身体も心も弱っていきます。まずは地域に出かけ、人とつながっていくこと。これこそが健康で、充実したセカンドライフの第一歩です。