無視できない職場の“しわ寄せ疲れ”
今年10月から「改正育児・介護休業法」が施行され、企業にはより柔軟で実効性のある育児休業制度の運用が求められるようになりました。制度拡充は子育て世帯にとって大きな追い風ですが、一方で職場の現場では「その分のしわ寄せを誰が担うのか」という新たな課題が浮かび上がっています。
こうした状況の中で注目を集めているのが「子持ち様」という言葉です。これは、子育てを理由に職場や周囲に負担を生じさせる親を揶揄するネットスラングで、近年SNSでは「同僚が育休に入ったのに補充がなく、私の仕事が増えた」「子どもの体調不良で早退した同僚の仕事が全部こちらに回ってきた」といった不満とともに使われるケースが急増しています。
少子化や人手不足が深刻化する中、子育て支援は社会全体にとって欠かせないテーマですが、その一方で現場の“しわ寄せ疲れ”も無視できません。
今回の法改正で育児休業の利用がさらに広がることが予想される今こそ、「子持ち様問題」を冷静に検証する意義があるのです。
しかし、この「子持ち様問題」について実際にどんな職場で起きやすいのか、また誰がその影響を強く受けているのかを調べた調査はほとんどありません。
いわば、実態がつかめない“もやもやした問題”として扱われてきたのです。
筆者がデータを用いて分析したところ、この問題の輪郭が少しずつ見えてきました。そこで今回は、「子持ち様問題はどんな企業で発生しやすいのか」という点に焦点を当て、その実態を解き明かしていきたいと思います。
「子持ち様」問題の3つの背景
実際の分析結果を紹介する前に、そもそもなぜ子持ち様問題が発生するようになったのかといった3つの背景を簡単に説明したいと思います。
まず1つ目は、SNSの発達です。これまで子持ちの親に対する批判を持つ人々はいたでしょうが、それはあくまで個々人の不満にすぎませんでした。ところが今はSNSで一気に共有・拡散され、社会全体にインパクトを持つようになったのです。「みんなが薄々思っていたこと」が一気に可視化された、と言えるでしょう。
2つ目の変化は、子どものいる世帯の減少です。日本では、長きにわたる婚姻数と出生数の低下によって、子どものいる世帯数が減少しています。2022年の厚生労働省の『国民生活基礎調査』によれば、18歳未満の未婚の子どもがいる子育て世帯の割合が初めて20%を下回り、18.3%となりました。そして2024年には子育て世帯の割合がさらに低下し、16.6%となっています。
これらの数字は、「子育て世帯が今では少数派」になりつつあることと、「子どもを育てた経験のない大人」が増えたことを意味します。
子どもを育てることは多くの苦労を伴いますが、社会の中で少なくない人がその苦労を経験しなくなっており、寛容になれなくなった可能性が考えられます。数の上で子育て世帯と非子育て世帯の差が深まっており、子育ての苦労を「お互い様」と割り切れなくなってきているわけです。