大阪・関西万博オランダパビリオンとアシックス
2025年大阪・関西万博において、「コモングラウンド(共に分かち合い、新しい価値を生み出すこと)」というテーマを掲げるオランダパビリオン。スタッフたちが履いているのは、同パビリオンの公式スポンサーであるアシックスが開発したスニーカー「NEOCURVE™(ネオカーブ)」だ。サーキュラーエコノミーの考え方を取り入れた新型フットウェアである。
サーキュラーエコノミーとは、限りある資源を可能な限り循環させ、廃棄物を出さない社会を目指す考え方で、「作る・使う・捨てる」という一方通行の経済活動から、「循環」へと発想を切り替えることを指す。
同社でNEOCURVE™の開発にあたった村岡秀俊氏はこう語る。
「今回のプロジェクトは、『捨ててしまうものから新しいものを作ることができないか?』というシンプルな疑問から始まりました。この商品は、従来のフットウェアと異なり、使用されずに廃棄予定となったシューズを原料にして作られたスニーカーです。サンプル品や自社規定をクリアせず販売できなかったものなどをリサイクルし、材料の一部として活用する……これが大きな特徴です」
NEOCURVE™の製造には、アシックス製シューズのデッドストック、サンプル品、自社規定をクリアせず販売できなかったものが原料として使われている。回収されたシューズは、オランダに拠点を置くシューズリサイクル企業の独自技術を活用してフォーム材、ゴム、繊維、皮革、金属、その他材料に分別される。その後、それぞれの材料は、シューズに求められる強度や耐久性などを満たした品質となるようテストを繰り返したうえで材料化され、アッパー、ミッドソール、アウトソール、中敷き、靴紐の材料の一部として用いられる。
廃棄予定だったシューズを粉砕・再生し、新たな価値を創造するこのプロジェクトは、オランダパビリオンのテーマと共鳴し、来場者に「循環型システムの大切さ」という重要なメッセージを発信している。
「環境」と「品質」を両立させるアシックスの技術力
NEOCURVE™は欧州で発生した廃棄予定製品を回収し、オランダで分解・粉砕された後、欧州サプライヤーによって材料に加工され、ポルトガルの工場でシューズに生まれ変わる。デザインはオランダのデザイン会社が手がけ、欧州のアシックスオンラインストアやホールセールパートナーで販売された。
「ヨーロッパ圏内での地産地消」を重視することで、回収から店頭に並ぶまでの輸送にかかるエネルギー負荷も軽減できるというメリットがある。
「サステナブルなモノづくりにおいては、欧州圏内のサプライチェーンが充実していて、シューズ製造はもちろん、リサイクル材料を加工できるパートナーも多い。今回のプロジェクトをスタートするにあたって、欧州圏内なら『地産地消サーキュラーモデル』が構築できると考えました」
ただ、プロジェクト推進にあたっては予想外の出来事もあった。
アシックスでは、履きやすいシューズを作るための設計指針として、クッション性、安定性、グリップ性、屈曲性、フィット性、耐久性、通気性、軽量性という8大機能を重要視している。同社の「品質に対する妥協のない姿勢」に、現地パートナーが困惑する場面もあったという。村岡氏が、その舞台裏を明かす。
「今回、初めてポルトガルの工場で製造を行ったのですが、現地パートナーに『アシックスクオリティ』について伝えたところ、『こんなに厳しいのか』と非常に驚かれた様子でした。彼らにとっては従来の常識では考えられないような作り方だったのでしょう。でも、丁寧に説明すると工場の技術者も納得してくれて、納得できるクオリティを満たすことができました」
品質や機能性において妥協することなく、サステナビリティや循環性を追求することで、新たなイノベーションの創出につなげる……これこそが、アシックスのサーキュラーエコノミーに対する姿勢だと言えるだろう。
「健やかな地球環境のために」いかに廃棄を減らせるか
村岡氏によれば、現在、全世界で生産されるシューズは年間230億足にのぼる。そのうち95%は廃棄され、燃やされるか埋め立てられているのが実情だという。
「リサイクルが進まない要因として、複合素材が接着されているため、解体や材料の分別が難しいことが挙げられています。これをどう減らしていくかが、私たちメーカーの責任なのです」
近年、さまざまなスポーツ大会において、酷暑による熱中症を予防するため、試合が中止になったり、試合時間が短縮されたりなど、気候変動の影響が及んでいる。アシックスでは、「気候変動はスポーツの持続可能性に直結する課題」と認識し、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すという目標を掲げている。
「当社の創業哲学を表すブランド・スローガンである「Sound Mind, Sound Body(健全な身体に健全な精神があれかし)」の後に「Sound Earth(健全な地球)」と続いています。運動やスポーツを続けていくためには、健やかな地球環境が不可欠なのです」
こうした創業哲学に基づき、アシックスでは、過去にも環境負荷低減をテーマとしたコンセプトシューズの開発・商品化を行ってきた。例えば、2023年に発売された「ゲルライトスリーシーエム1.95」は、商品のライフサイクル全体で排出される温室効果ガス排出量(カーボンフットプリント)を、従来のスニーカーに比べて大幅に削減したモデル。2024年に発売された「NIMBUS MIRAI™(ニンバス ミライ)」は、リサイクルを前提に設計され、使用後に回収・分解して再資源化できる商品だ。
「NEOCURVE™は、こうした取り組みの延長線上にあります。コンセプトシューズの開発を通じて培った技術を横展開していくことが重要なのです。NEOCURVE™で培った分解技術は、一般のランニングシューズやライフスタイルシューズにも応用できる。今後は、さらに異業種のパートナーとも連携し、サーキュラーエコノミーの考え方を広めていきたいと考えています」
大阪・関西万博での取り組みはその第一歩だ。持続可能な社会の実現を目指していく上で、「モノづくりの未来」をどう築いていくのか? その問いに、アシックスはシューズを通じて答えようとしている。
オランダパビリオンのスタッフより
アシックスの「NEOCURVE™」は、サステナビリティと循環型経済の原則に基づいて設計されています。廃棄物を削減し、新たな製品へと循環させることを目指した素晴らしいシューズです。
これは私たちの循環性への志と完全に一致しており、そのためオランダパビリオンの公式スポンサーとしてアシックスと協働することを選びました。
今日、世界が直面している喫緊の課題は、資源の不足、そして化石燃料への依存を断ち切ることです。なぜなら、地球は「閉じたシステム」であり、新しい資源が外から加わることはないからです。循環性は、限られた資源や素材を無限に利用可能にします。太陽・風・水といった自然エネルギーを活用できるのです。
私たちは、このコンセプトを2025年大阪・関西万博で体現しようとしています。オランダパビリオンでは、自然の力を活用する革新的な技術を紹介することにより、循環的なシステムへの移行をアシックスとともに後押しします。