1897年創業。紙媒体をはじめとするリアルなモノづくりからコミュニケーションを最適化するサービスメニュー、食品や日用品、医薬品向けの包材まで多様な事業を展開。製品・サービスを通じて生活者の日常を支え、社会課題の解決に貢献している。
1963年生まれ。87年慶應義塾大学商学部を卒業し、共同印刷に入社。経理部財務課長、経営企画本部総合企画部長、情報セキュリティ事業本部長などを経て2023年取締役常務執行役員、24年取締役副社長執行役員。25年4月より現職。
「創意と熱意で新たな価値を生み出し、共にある未来を実現する」。これが共同印刷グループの新たな経営理念です。これまであった「印刷事業を核に――」との文言を取りました。私たちの事業が印刷で培った技術や知見の上に成り立っているのは間違いありませんが、事業環境が大きく変化する中で、“従来の枠組みにはとどまらない”との姿勢を社内外に明確に示したいと考えました。
「創意と熱意」という言葉には、自由な発想や新たな視点を尊重していく。しかし事前に成功が約束されたアイデアというものはないから、同時にやり抜く意志も欠かせない。まさに創意と熱意を両輪として事業を推進していきたいとの思いを込めています。
そうした経営理念の下、長期戦略では24年度から34年度の10年間で売上高を1.5倍、連結営業利益を120億円以上とすることを目標としました。同時に、現在「情報系事業」と「生活・産業資材系事業」の売上比率が「2対1」であるのを10年後までに「1対1」とすることを目指しています。この売上比率の見直しは、紙媒体市場の縮小などに対応する上で重要な戦略ポイントといえます。
生活・産業資材系事業の拡大で鍵となるのは機能性素材です。すでに当社は吸湿機能を持つフィルムや盗撮防止機能のある生地など多くの製品を持っており、今後も斬新かつ実用的な新素材、新製品の開発に力を注いでいく考えです。独自の機能を持つ素材は価格戦略上も優位性が高く、収益への貢献度も高い。成長戦略に欠かせない要素といえます。一方、情報系事業においては漫画なども活用しながら、オリジナルコンテンツの発信などを行いたい。印刷から非印刷の情報サービスへと重心を移行し、情報加工を中心としたサービスを積極的に展開していきます。
いずれにおいても長期戦略を支えるのは“人”に他なりません。共同印刷グループが新たに設定したマテリアリティの一つは、「事業成長の原動力となる人材戦略」です。その中で私自身が重視しているのは、各階層の社員が責任を持って意思決定すること。主体的な判断です。常に上に判断を委ねる組織からは新たなものが生まれにくい。「仕事を任されている」「自分の仕事だ」と感じるからこそ、一人一人が創意や熱意を発揮できるのです。
研究開発や海外展開の推進は重要な投資ターゲット
長期戦略においてもう一つ大事な取り組みとなるのが投資の強化で、34年度までに700億円規模を計画しています。情報系事業では生産性の向上が優先課題です。端的に言えば現在5人で行っている仕事を4人、3人でできるようにしていく。人手不足のいっそうの深刻化が予測される中、これは競争力に直結する課題だと考えています。
そして、生活・産業資材系事業では新製品や新技術の研究開発に資金を投入していきます。お話ししたとおり、独自性を備えた高付加価値製品は今後の私たちの成長を支えるものです。その供給先も当然国内に限りません。海外展開にもいっそう注力し、市場の“面積”を拡大していきたい。その過程において、国内外の企業との提携やM&Aにも前向きに取り組んでいきたいと思っています。
組織として課題と向き合い企業の持続性を高めていく
創業以来、130年近い歴史の中で培ってきたお客さまとの信頼関係は共同印刷グループの貴重な財産です。今後は“パートナーシップ”という観点をより大切にしていきたいと考えています。印刷事業の中では「お客さまの要望に応えること」に重点が置かれる側面がありました。しかし現在は、お互いを尊重し、対等な立場でコミュニケーションを取りながら仕事の質を高めていくことが求められている。組織全体でそうした意識を強めていく必要があるでしょう。
長期的な目線で組織力を高めていくことは、私自身の大きなテーマで、社内では「常に後任のことを考えて仕事をしてほしい」といった話もしています。業務を属人化させず、一人一人が組織の一員として役割を果たし、課題と向き合っていく。その積み重ねこそが企業の持続性を高めていくに違いありません。
そしてもう一つ、強く発信しているのが「共同印刷を挑戦があふれ出る組織にしたい」ということです。事業環境の変化、それ自体はコントロールできません。トライして、駄目ならまたトライする――。そうした営みが市場のニーズや社会の価値観の変化に柔軟に対応することにつながるはずです。経営トップとして誰もが挑戦できる環境をつくっていきますので、ぜひこれからの共同印刷にご注目ください。