フィンランドの子供たちは「学習への不安が少ない」

また、フィンランドには教育省以外に国家教育庁という執行機関があるが、その事務総長は、学習成績が悪化した理由について、例えば、家庭の社会経済的不平等の拡大、教育に対して配分される資源のレベル、子供及び若者のリテラシーの二極化、モティベーションの欠如、教育に対する信頼の欠如、ソーシャル・メディアの影響、メンタルヘルスの問題など、様々な社会的変化を挙げている。

そのうえで、例えば、国が定める教育課程の見直しや、自治体や学校に対してどのように支援できるかを考えるなど、学校制度全体の効果について批判的に見直すことが必要と述べている。

フィンランド政府として、PISAの低迷に反省を示しながらも、その要因については、やはり現時点では十分明らかにできてはいないようだ。もちろん、様々な要因が複合的に、あるいはボディーブローのように一定時間が経過してから作用したのかもしれない。ただ、いくつか気になることがあるので指摘しておこう。

はじめに、フィンランドの子供たちについて、OECD加盟国の中で最も数学に関する不安が少ないというデータが出ていることだ。PISAでは毎回3つの分野の中で中心分野を決めているのだが、PISA2022は数学的リテラシーが対象だった。そのため、調査項目に「数学に対する不安」があり、具体的には、「数学の問題を解こうとすると不安になるか」、「数学で失敗することが心配であるか」といった質問をしているのだが、フィンランドの子供たちは、OECD加盟国の中で最もこうした不安が少ないという結果が出ている(図表4)。

【図表】PISA2022での数学的リテラシーのスコアと数学に対する不安の関係性
出典=『世界の教育はどこへ向かうか』(中央公論新社)

肯定的に評価してよいのかどうかは疑問

OECDは、学習に対する不安と数学のスコアには負の相関関係が見られるとしており、フィンランドで学習に対する不安が少ないことを肯定的に受け止めている。

確かに、メキシコやブラジル、アルゼンチンなど中南米の国を中心に、「不安が強く、スコアも低い」という国もあり、これらの国と比べれば、フィンランドは相対的に「不安が少なく、スコアも高い」と言える。しかし、その理屈が正しいのであれば、フィンランドよりも好成績の日本や台湾、シンガポール、香港、マカオなどでは、学習に対する不安がより少なくなるはずだが、実際にはそうなってはいない。

もちろん、不安が少ないことは、必ずしも悪いことではないだろう。しかし、東アジアの国・地域のように「反例」とも言える事例が見られる中で、フィンランドの子供たちの間で数学に対する不安が少ないということを、手放しで肯定的に評価してよいことなのかは疑問がある。