アクセンチュアとマイクロソフトの合弁会社として誕生、世界で最初にマイクロソフトの最新技術を自社導入する「クライアントゼロ」として信頼を築いてきたアバナード。日本法人設立から20年、生成AI導入支援などで着実に実績を重ねている。同社の生え抜きトップである鈴木淳一社長に、現状と今後への課題を聞いた。

単なる技術提供だけじゃない――経営戦略との連携でイノベーションを生み出す

――御社の成り立ちや、提供しているサービスについてお聞かせください。

【鈴木】アバナードは2000年にアクセンチュアとマイクロソフトの合弁会社として米国で誕生し、2005年に日本法人が設立されました。ビジネス変革力のアクセンチュアとテクノロジーのマイクロソフト、この2社のDNAを受け継いで、単なるITソリューション提供の枠を超えたデジタル変革支援サービスを展開しています。

当社は、ただテクノロジーを売るだけの会社ではなく、お客様の未来を一緒につくっていく会社です。例えばクラウド移行や生成AI導入においても、技術提供のみにとどまることなく、業務の効率化や意思決定の高度化など、お客様の組織がイノベーションを生み出すための基盤づくりまで支援しています。

技術を実装すると同時に、お客様の経営戦略とも連携しながら目的達成まで伴走する――。それが私たちの役割であり価値だと思っています。

鈴木 淳一(すずき・じゅんいち)
鈴木 淳一(すずき・じゅんいち)
アバナード株式会社 代表取締役社長

――鈴木社長は国内系SI企業を経て2008年に入社されました。入社当初はアバナードの社風に驚かれたそうですね。

【鈴木】エンジニアとして入社し、最初に公共系のプロジェクトに参画させてもらったときは、この規模の仕事をこんな少人数でやるのかと衝撃を受けました。加えて、先輩エンジニアの技術力やコンサルタントの課題解決能力にも圧倒されました。今思えば、各メンバーの生産性が高いからこそ少人数だったのでしょう。

しかし、それ以上に驚いたのは、卓越した知がごく自然に共有されていく文化です。個人のスキルや経験はその人の中に留め置かれやすいものですが、アバナードでは誰もが熱心に私と共有しようとし、挑戦を後押ししてくれました。

その根底には、個々の才能を競わせるのではなく、結集させることで大きな力に変えていこうという思想があるのだと思います。また、全員が常にグローバルな視点を持ち続けているところも新鮮でした。

人を大切にして組織全体でその成長を促す文化、挑戦を奨励する社風、そしてグローバルな視点。これらは今も、私たちにとって、お客様に最高の価値を提供し続けるための最も重要な戦略です。この3つを、次の世代に継承していくことが私の使命だと考えています。

現状を変えたい、その思いを持つ企業様すべてが私たちのパートナー

――近年は生成AI導入の引き合いも多いと思いますが、相談内容の傾向や事例を教えてください。

【鈴木】生成AIに関しては、最近はお客様のご相談内容が「とにかく導入したい」から「自社の経営課題の解決にどう生かせるか」といった本質的なものに変わってきました。AIは魔法の杖ではなくビジネスゴールを達成するための手段だという認識が広がってきたためか、経営者の方々の視座がより戦略的になっていると感じます。

当社でも、まず「目指すゴールはどこか」「どんなビジネス変革を起こしたいのか」をお聞きして、その上で議論を交わしながら目的達成に向けたロードマップを描いていくようにしています。

代表的な事例としては、日本航空株式会社様の独自生成AIプラットフォーム「JAL-AI」の開発支援が挙げられます。生成AI活用による社内業務効率化という目標の達成に向けて、私たちは社内ナレッジや他システムの検索・活用、議事録の自動生成、整備部門向けのマニュアル等の文書検索・活用、空港のグランドスタッフがiPadで利用可能なチェックインカウンターでの危険物検索アプリやラウンジカウンターでの入場条件検索アプリなど様々な部門における業務課題に対して支援を行いました。

その後、「JAL-AI」は間接部門の社員の実質100%が利用するまでに普及し、日本航空様からは「改善要望に対するアクションが早い」「ビジネス意図をくみ取って適切なコンサルティングを提供したり開発に生かしたりしてくれた」という評価をいただきました。今後もさらなる業務効率化を目指して、引き続き最新技術を活用したAIエージェント構築やAIアジェンダの推進支援を行っていく予定です。

――国内においては、特にどんな企業にアプローチしていきたいとお考えでしょうか。

【鈴木】業種や規模に関わらず、「テクノロジーを活用して自社や社会を変革したい」という意志と情熱をお持ちの企業様すべてが、私たちのパートナーになり得ると考えています。そうした志の高い企業様とともに、大きな変革を起こしていきたいですね。

中でも積極的にコミットしているのは、日本が直面している課題をテクノロジーの力で解決するような取り組みです。少子高齢化に伴う労働力不足や生産性の低さ、自然災害などは日本の特徴的な課題ですし、その解決にはテクノロジーが貢献できる余地も大きい。社会にポジティブなインパクトを与えるこうした取り組みには、今後もぜひ寄与していきたいと思っています。

当社の務めは、お客様の変革意思を技術で加速させることです。変革への情熱さえお持ちであれば、私たちはその思いに全力で寄り添い、一緒に未来像を描きながら実現を目指していきます。

世界中の知のベースを活用することで、最短距離でゴールへと導く

――パートナーとなる企業にとって、アバナードならではの強みはどんな点にあるのでしょうか。

【鈴木】主に3つの点が挙げられます。一つはアクセンチュアとマイクロソフトのDNAを引き継いでいるところで、特に後者の技術活用では私たちは世界No.1であると自負しています。アバナードは、世界で誰よりも早くマイクロソフトの新技術を試して知見をお客様に展開できる「クライアントゼロ」であり、最新技術の道先案内人と言えるでしょう。

2つ目は、日本のお客様が「解決策が見当たらない」と感じている課題に対しても、世界中の事例から策を引き出して提示できる点です。アバナードのグローバルネットワークは、成功事例の巨大なデジタル図書館のようなもの。私たちはそこから見つけ出した策を、日本特有の文化や商習慣に合わせて最適な形に仕立て直します。そのため、他社なら何年もかけてたどり着くようなゴールにも最短距離で到達することが可能です。

3つ目は、日本企業のグローバル展開にあたって、ERPやCRMの一元化を提案・提供できる点です。各国の法規定や商慣習に合わせて個別のシステムを作っていった結果、それらが複雑に絡み合って管理や意思決定が難しくなってしまったという例は少なくありません。当社にはそれを、各国の専門家と連携しながら、真に統一されたプラットフォームに変革していける知見と技術があります。

――10年後の30周年に向けて、アバナード日本法人をどう進化させていきたいとお考えでしょうか。

【鈴木】テクノロジーの力で、よりよい未来と人中心の社会を創造する会社にしていきたいと考えています。そこを目指して今後も、人を代替するのではなく人の可能性を拡張するプラットフォーム、人の創造性を解き放つプラットフォームを、AIを活用することで提供し続けていくつもりです。

近年、当社は人口減少が深刻になりつつある中小規模の地方自治体へのデジタル化支援も積極的に行っています。例えば、山形県酒田市とは、同市で暮らしながらオンラインで都市の仕事を行う女性を後押しする「サンロクIT女子育成プロジェクト」で協働させていただいています。

私は新潟県出身ということもあって、地方に住む優秀な方々がもっと輝けるようにしたい、地方都市を活性化していきたいという強い思いがあります。そして、それを実現する上ではテクノロジーもきっと役に立てるはずだと信じています。

30周年を迎えるときには、「日本におけるマイクロソフト×AIのリーディングカンパニー」と言われる存在になっていたいですね。その未来を実現すべく、これからもテクノロジーの進化を先取りしながら、企業や自治体の、引いては日本の変革にしっかり貢献していきたいと思います。