【高橋】それぞれが操れるようになったら、今度はトビーがアースラさんのせりふに合わせた細かな動きを一人一人につけていくんです。せりふの一言ごとに、ですよ。「あ~ら」というせりふがあったら、1番の動きはこうで、2番はこうと、足の1本ずつに表情をつけていく。それがあってはじめて、アースラとしての「あ~ら」の表情ができあがる。

【権頭】だから僕らもアースラさんのせりふを全部覚えました。

【高橋】青山さんの一部として、自分もアースラになりきってます。

【青山】トビーは触手1本で、人間のあらゆる感情を表現するんです。退屈だなと感じている動きや、「あらっ」と驚いて眉が上がる感じもね。

【高橋】足の一本一本に、性格もつけてくれました。

【青山】そうなんです! それでどうやら私は2番がお気に入りのようで、5番のことは嫌いみたい(笑)。なのに5番はいつも寄ってくる。

【南】そのたびにピシッピシッと払われる(笑)。払われるときの動きにもこだわっています。

【権頭】アースラさんは台車に乗っているんですが、僕らは足を操りながらその台車も動かしています。覚えることがいっぱいですね。

【南】どのせりふで台車がどっちに進むのか。単に右や左に動かすだけじゃだめなんです。水中で泳いでいるわけですからね。右を向くときは、どの足からどう出ると自然に見えるか。何度も何度も繰り返し練習して体に染み込ませました。

【青山】稽古中の3カ月、朝10時から夕方6時までの稽古時間が終わると、彼らは「はい、テンタクルス」と集まって、さらに2~3時間、居残り稽古していました。

【斎藤】僕ら触手の位置がほんの少し違うだけでアースラの表情が変わってしまうんです。左右の高さも合わせないといけない。だから鏡で見ながら、お互い指摘しあって一つ一つの動きを正確に反復練習。

【高橋】あるポーズに入るまでの動きも、流れとしておかしくないか何度も確認します。指定の場所にたどり着くだけで3時間かかったこともありました。

【青山】たまたまうまくいった、ではダメなんです。毎回確実にできるようになるまでもっていかなくちゃ。

【斎藤】でもそうやってせっかく覚えた動きも日々どんどん変更されてしまうんです(笑)。

【一同】そうそう。

【青山】昨日つけた振り付けがあまりにもバッチリできているから、トビーは嬉しくなって、「もっと、もっと!」と難易度を上げてくる。