日本は確実に「訴訟社会」へ向かいつつある。裁判所の調べでは、日本で民事訴訟が提起される件数は最近20年のうちに倍増し、09年度には23万件を突破した。ここには事業絡みの訴訟も相当数含まれるが、ごく身近な住民同士のトラブルも増加傾向にある。
代表的なのはマンション建設の際の反対運動や建設差し止め請求、建設工事による騒音・振動の問題だ。マンションの住民が、隣人のピアノや子供のたてる騒音などを巡り訴えることもある。
ただ、幸いなことに、日本ではこうした住民トラブルで億円単位の高額な賠償が認められるケースはまずないという。主婦層などの法律相談を受けることが多い梅原ゆかり弁護士はこう指摘する。
「米国では懲罰的損害賠償も認められていて、陪審員の判断によっては非常に高額の判決が出る場合もあるようですが、日本では実際に被った被害相当額までしか認められません。米国の事情が日本にも伝わり、『うまくすれば自分も多額の賠償金を取れるのでは』と誤解している人が多いのではないでしょうか」
とはいえ、安心するのはまだ早い。愛媛県で起きた次の事件は他人事とはいえないだろう。小学校の校庭で男の子が蹴ったサッカーボールが敷地の外に飛び出し、それを避けようとしたオートバイの男性が転倒して後日亡くなった。11年6月、大阪地裁は子供の過失を認め、両親に1500万円の賠償を命じたのだ。
この件で少年側は個人賠償責任保険に加入しており、保険会社と被害者との示談が折り合わなかったために訴訟に発展した。個人賠償責任保険は、こうした日常生活における賠償責任をカバーする保険だが、とくに高額になりやすいのが自転車事故だ。日本コープ共済生活協同組合の実績では、自転車事故の賠償として最高7000万円を支払ったという。
保険に加入していなかったら、どうなっただろうか。
栃木県生まれ。宇都宮女子高校、早稲田大学法学部卒業。1999年、同大学院修了。牛島総合法律事務所などを経て現職。『近隣トラブルの法律と実践的解決法』など著書・監修書多数。