また、若者の消費概念がだいぶ変わりました。都心部で車を買うのは意味がない、外食でなく家でご飯を作ればいい、ブランド物を買って自己実現という感覚が理解できない。そんなふうに今の若者は思っています。そのかわり、携帯電話の通信費をはじめ、誰かとつながるための出費は惜しみません。握手券を売っているともいえるAKB48、遠足気分で買い物ができる会員制倉庫型店舗のコストコなどの人気にも、そこにつながりやコミュニケーションを求める消費者意識が読み取れます。

職業生活に関しては、「ホリエモン」のような成功モデルの魅力が薄れています。大金持ちに憧れて、ベンチャー企業を起こそうという若者はあまりいません。新入社員の意識調査では、明らかに安定志向が強まっています。内閣府の「国民生活に関する世論調査」の別項目では、日常生活で「悩みや不安を感じている」と答える20代の率が、1990年代の半ばから上昇傾向にあります。不安な時代だからこそ安定を求めるのは、ごく自然なことでしょう。

若者の安定志向や物欲のなさは、世代論的にも説明できます。単純な話で、そもそも僕と同い年くらいから、バブル景気の時代が肌感覚でまったくわかりません。もの心がついてから元気な日本の姿を一度も見ていないため、今が不遇の時代という意識を持ちようがないのです。就職が大変なことも、世代間格差についても、それは当然の前提すぎて、さほどの怒りを覚えません。漠然とした「不安」は感じても、いつの何とくらべてこうという思考回路がないので、具体的な不満にならないわけです。そこで現在の生活はどうかと聞かれたら、「満足」「まあ満足」と答えてしまいます。

若者のうちはそれでもいいかもしれない、しかし中年になったら同世代間の収入格差がはっきりし、結婚をしている/していないで従来の友達関係も続かなくなるものだ、という指摘があります。それに対して僕は、予測は難しいのですが、意外と現状に満足したまま歳をとっていくのが今の若者かもしれない、という気がします。一生シェアハウスで暮らすのでもいい、結婚しなくてもいい、という新しい価値観が出てきているからです。