ただ、技術職から営業職という配転は話が別。労使紛争に詳しい砂田有史弁護士は、次のように解説する。

「営業の現場に出てお客さんのニーズを知ることは、技術者にとっても大事なことだという考え方があります。この考え方は、人材育成の観点から必ずしも否定できるものではない。技術から営業への配転はキャリアの断絶ではなく、必要なステップの1つというロジックが成り立つ以上、権利の濫用とまではいえません」

自主的な退社に追い込むための嫌がらせの配転も、権利濫用として無効になる。判断材料の1つになるのは、その会社における前例だ。たとえばある会社で、退職勧奨に応じなかった人がいつも倉庫係に“島流し”されていたとしよう。自分が退職勧奨を断ったときにも同じような出向命令が出たら、嫌がらせ目的だと考えられる。逆のパターンもある。退職勧奨を断ったことにより、通常の異動と違うイレギュラーな形で配転が行われれば、退社に追い込むための不当な配転だと認められる場合がある。

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退職への片道切符・PIPとは?

人の入れ替わりが激しい外資系企業や一部の日本企業は、嫌がらせと認定されないように、肩たたきしたい従業員にPIP(Perform ance Improvement Program=成績改善計画)を受けさせることもある。一般的なPIPの期間は3カ月。適用後、成績が改善していなければ、会社としてやるべきことはやったとして対象者を閑職に配転したり解雇する。このようにきちんと手順を踏まれると、倉庫係への配転も文句をいいづらくなる。

もし用意周到に準備されたうえで不本意な配転命令を受けたら、どうすればいいのだろうか。砂田弁護士は、「いい形で退職するのも選択肢の1つ」とアドバイスする。

「すべて元どおりになることが理想ですが、配転トラブルは隣人トラブルとよく似ていて、もし訴訟を起こして配転命令を無効にできたとしても、前と同じようには働きづらいという面があります。辞めることを前提に金銭的な解決を図ることも視野に入れて、会社側と交渉したほうがいいでしょう」

(構成=村上 敬)
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