お調子者の選手は、基本的におだてます。ただ、調子に乗りすぎると失敗するので、半分は厳しくする。いま主将を務める八木勇樹はまさにこのタイプで、よくこんなふうに話しかけます。

「おまえはいいものを持ってるし、これだけ練習して結果が出ないわけないよ。それでも走れないところが、おまえの甘さなんだよ」

彼らはうまく調子に乗せると期待以上の結果を出すので、監督の手綱さばき次第という面があります。

ずば抜けて競技力がある選手は、常人と発想や考え方がまるで違うので、僕は「宇宙人」と呼んでいます。彼らには、まず僕との仲間意識を持たせます。

「おまえは変わってるな。俺と一緒だ」

「いえ、僕は監督と違います」

「そんなことない。俺も宇宙人だからわかるよ」

彼らは意欲的で自己管理にも長けていますから、基本的に自由にやらせます。ただし、たまに見当違いの方向にも突っ走るので、首根っこの大事なところだけ押さえておく必要があります。例えば、将来の目標がオリンピック代表なら、そこにたどり着くまでの過程を描いてみせて、「今年はこの試合に照準を合わせよう」とアドバイスするようなことです。そこさえ押さえれば、あとは放っておいても本人が考えて自ら育っていきます。

このように選手のタイプや状況を見定めながら、チーム全体に厳しい練習を課した結果が箱根駅伝の優勝であり三冠だったのです。ギリギリのところまで無理をしなくては高い成果が望めないのは、駅伝も仕事も同じです。

その厳しい練習の結果、自分のタイムが縮まり、試合で結果を出せるようになれば、チームの士気も高まります。監督の言った通りになったと選手が認めてくれたら、さらに信頼関係は深まります。

組織を強くするためには、全員で厳しい試練に打ち勝つことが必要なのです。

※すべて雑誌掲載当時

早稲田大学競走部・駅伝監督 渡辺康幸
1973年、千葉県生まれ。早稲田大学進学後、エースとして箱根駅伝等で活躍。ヱスビー食品入社後は故障に悩まされ、29歳で現役引退。2004年より現職。著書に『自ら育つ力』。
(構成=伊田欣司 撮影=上飯坂 真、太田 亨、市来朋久)
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