2010年2月9日(火)

半年で1億7000万食!「大ヒット納豆」誕生の秘密

PRESIDENT 2009年5月4日号

著者
野口 智雄 のぐち・ともお
早稲田大学社会科学総合学術院教授

1956年、東京都生まれ。一橋大学大学院博士後期課程単位修得後、横浜市立大学助教授を経て94年から現職。2006年から08年まで、客員研究員としてスタンフォード大学経済学部で活躍。88年、『現代小売流通の諸側面』で日本商業学会賞を受賞。『水平思考で市場をつくるマトリックス・マーケティング』『なぜ企業はマーケティング戦略を誤るのか』など多数の著書がある。

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早稲田大学大学院教授 野口智雄=文
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容器の中にあるフィルムをはずし、たれの小袋を空けるのが面倒……。気づいてはいても改良が実現しなかった納豆業界に、革新が起きた。その裏ではどのような努力があったのだろうか。

家庭でのありふれた光景がヒントになった

信じられないことに、高度な買い手市場が成立している日本においてさえ、消費者は依然として、「ストレス」に悩まされ、大袈裟にいえば「忍耐」を続けている。この「ストレス」や「忍耐」からの解放は、新しいフロンティア市場を切り拓くチャンスになる。今回ご紹介する商品は、そんな消費者の抱く心理的負担を取り除くことで大ヒットに結びついた模範例である。

われわれ日本人がよく食べる納豆。この伝統食品には特段、ストレスの入り込む余地はないように思われる。だがこれまで「たれの小袋が開けづらく、指や服を汚すことがある」「はがしたフィルムがベタベタする」などの不快感を覚えたことのない人はいないのではなかろうか。ただ、これらはいわゆる「問題」とはいえない軽微な「面倒」としか見られなかったためか、納豆メーカーは積極的な対応をしてこなかった。

しかしこの軽微な「面倒」を解決すべく、真っ正面から取り組んだメーカーがある。食酢メーカーとして有名なミツカンだ。同社は2008年9月にたれの小袋とベタベタするフィルムを取り除いた「金のつぶ あらっ便利!」シリーズを発売し、09年2月までの半年間で実に1億7000万食を売り上げる大ヒットを勝ち取った。

同社は、納豆事業を始めてまだ10年余り。だがこの事業に入って間もない00年時点から消費者が納豆に抱くストレスを解消する方法はないかと取り組んでいた。当初、シールを引っ張ると納豆の上にたれとからしが落ちるという完成度の高い容器まで試作している。ところがこれはコスト負担が既存のものに比べて6倍超と高く、消費者の満足が得られないということで断念している。

今回の「あらっ便利!」は、06年12月からスタートした「納豆革新プロジェクト」の努力の結晶として誕生したものだ。同プロジェクトでは、研究開発、マーケティング、製造などの選りすぐりの人員が総勢数十名、横断的に組織されている。この強力な布陣で多面的な取り組みがなされたのだ。

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