そして最終的にセパレートタイプの容器が作られたのだが、これも紆余曲折し、今市場に出回っている三角形のたれスペースと台形の納豆スペースに落ち着くまでには多数のプロトタイプを検討したという。

従来の納豆に対して、たれの小袋以上に消費者がストレスを感じていたのは実は、豆の上に被せてあるフィルムだ。はがすと糸を引いて指がベタベタになり、置き場所にも困るアレだ。この厄介物をなくしたこともこの商品の大きな革新である。しかし、開発当初はこれを残そうという意見もあったそうだ。納豆の乾燥を防止するためには必要だったからだ。

ところが家庭用チルドビジネス副ユニット長兼製品企画部長の加藤秀人氏によると、「担当者は絶対そんなものはいやだ」と、非常に頑固に反対したという。それも強烈で、「そんなことならやめます。このテーマから降ろさせてください」とまで言い切ったというのだ。それで容器の反りを防止できるような構造設計がなされ、ふたの接着度を高めることで、フィルムを入れなくても乾燥しない容器が出来上がったという。ここには、商品開発力の素晴らしさだけでなく、開発担当者のほとばしるほどの商品へのこだわりが見て取れる。消費者の望むストレスフリーを実現できないような中途半端な仕事などできないという気概なのだ。ヒット商品を生み出すには、構成員によるこのような徹底したこだわりと意見を自由に言える組織風土が非常に重要といえる。

自由度の高い組織風土に関しても興味深いお話を伺った。ミツカンでは、商品開発のための内部のアイデア会議はかなり頻繁にやっているという。そしてそれだけではなく、さまざまな部署の個人が発案者となって新商品のアイデアを自由に出せるというのだ。発案者はいわゆる企画担当者となって、技術者とペアを組み、営業活動まで含めてすべてのプロセスを担当する。これによって新商品の開発は各部門ごとでぶつ切りにならず、発案者が最初から最後まで目を行き届かせて、責任を全うすることができる。

この稀有なシステムでは年功も関係ない。昨年発売されたわさび入りの納豆の開発者は、なんと入社1年目の新入社員だったという。