まず情報の収集だ。新商品の開発の際に消費者の声で最も参考になるのはクレーム・データである。既存の商品に対する消費者からの体験的問題提起とそれへの対処が、改良型の新商品を生むことがしばしばあるからだ。今回の「あらっ便利!」もそんな改良型ヒット商品といえる。

ミツカンは、「お客さま相談センター」を持っていて、そこに同社の商品に対する苦情・不満や意見などが寄せられる。納豆に関しては前記の通り、これまで小袋の問題やフィルムの問題が多数寄せられていた。これはどこの納豆メーカーでも恐らく同じだろう。重要なことはこれらをシビアな「問題」として認識し、きちんと対処するかどうかだ。

ミツカンではこの問題の所在や程度を深く知るため、大量サンプルによるマーケティング・リサーチを実施している。08年7月に東京・大阪在住の20代から50代の男女800名を被験者としたウェブ調査を行っているのだ。この結果(複数回答)、納豆に関して「イライラする」と感じたこととして、フィルムに関わる問題(「ビニールのフィルムがつくと手が汚れる」64.3%、「ビニールのフィルムに納豆がついたり、糸が引く」58.5%)、および小袋に関わる問題(「たれやからしの小袋を開けそこね、中身が飛び散る」50.1%)などが明確に認識されている。

またこの調査とは別に、商品を市場化する前にトライアル調査を行っている。これは試作品を社外の約100名の被験者に実際に食べてもらって、生の意見を聞くというものだ。実践面では省かれがちなマーケット・テストを「あらっ便利!」の開発過程ではきちんと実践していたのだ。

無論、社外だけでなく、社内からの情報収集にも余念がない。今回インタビューにお答えいただいた製品企画課長の神林弘幸氏は、自身の家庭での体験がこの商品の開発に影響しているという。神林家ではお子さんが納豆を見ると、作りたがる。しかし子供に任せておくとたれやからしで手や服が汚れてしまう。仕方なく取り上げると、子供はワーワー泣き出してしまう。これを見て、主婦は苦労しているなと実感したという。子供のいる家庭ではありふれた光景を目の当たりにし、「それじゃ、変えよう」と神林氏は思い立ったのだ。