「佐々木乳児院」のセールスポイント

佐々木唯希さん(一関修紅高校3年生)。

佐々木唯希(ささき・ゆうき)さんは私立一関修紅(しゅうこう)高等学校普通科幼児教育コースの3年生。将来何屋になりたいですか、と訊いたとき「保育士」ということばが出た。連載の冒頭にも書いたが、医療・福祉関連の志望者は、取材した高校生の3分の1を占める。だが、佐々木さんの答えは少し違っていた。

「保育士になって、できたら乳児院とか乳児施設を建てたいなと」

それは、自分で経営するということですね。

「はい。乳児院は赤ちゃんから2歳半ぐらいまでを預かると聞いています。3週間とか、長期で預かることもあります。母子家庭のお母さんが病気になって入院するってなると育てる人いないから、その時は乳児院に子どもを預けるかんじです」

乳児院は、児童福祉法第三十七条に規定された児童福祉施設だ。

《乳児院は、乳児(保健上、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、幼児を含む)を入院させて、これを養育し、あわせて退院した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする》

保育所との違いは「24時間赤ちゃんの面倒を見る」点にある。乳児院には看護師や保育士の資格を持った者が交替制で勤務している。全国に125カ所、岩手県内には2つ。東北六県で10施設(青森3、宮城2、秋田1、山形1、福島1)があり、全国で約3000人の子どもが入所している。以前は入所対象年齢は2歳までだったが、1998(平成10)年4月の児童福祉法の改正によって、2歳を過ぎた子どもでも児童相談所が適当と判断した場合には、乳児院で生活できるようになった。入所理由で最も多いものは母親の病気だが、両親の行方不明、虐待や育児放棄、貧困などの理由も少なくない。

乳児院を経営したいと思ったのはなぜですか。

「乳児院って、親がいない子どもが多いんです。だから、うちなりの育て方をしてみたいんです」

仮にその乳児院の名前を佐々木乳児院としましょう。佐々木乳児院のセールスポイントは何ですか。

「セールスポイント……やっぱ、子どもの笑顔ですか。ちっちゃいときに、寂しいなって思ったりさせたくない、みんなに」

佐々木さんは母と兄の3人家族だ。

「兄ちゃんは21歳で、金ヶ崎(奥州市の北に隣接する人口1万6000人の町。1993[平成5]年にトヨタ系列の関東自動車工業岩手工場が竣工している)で車を組み立てる仕事をしてるって聞きました。 母ちゃんは、デイサービスで働いています。長いです。 でも、母ちゃんの仕事場が流されちゃって、仕事なくなって。水沢に母ちゃんの弟がいて、『新しい施設がここで建つから、そこで働いてみないか』って言われて、こっちに来ました」

今、佐々木さんは奥州市水沢区で暮らしている。お母さんの職場も同じ水沢にある。佐々木さんはここから南隣の一関市にある一関修紅高に通っている。取材から3ヶ月後、メールでその後の状況を訊くと、修紅短期大学に合格したという返事が返ってきた。キャンパスは一関修紅高から少し離れるが、同じ一関市内にあり、自宅から通えるという。

「保育士の資格を取るつもりです。乳児院を建てたいというのは、『できれば』であって、とりあえず卒業したら、いろんなとこに行ってみようかなとは思っています。岩手県じゃなくてもいいです。大阪に行ってみたいなと思っちゃう。関西弁好きなんですよ(笑)。行ったことないんですけど。でも、岩手には戻って来たい。なるべく早い方がいいかなって思うから、30歳くらいかな(笑)。そのときはまだ結婚してなくて、フリーだと思います。今、彼氏いるんですけど」

彼氏いる、は書いていいですか。

「いいですよ(笑)」

佐々木さんは「できれば」と言ったけれど、「経営したい」という考え方に興味があるので訊きます。乳児院を経営する上で、障害になることは何だと思いますか。

(明日に続く)