両方のよい点だけを取り入れること、すなわち必要な場合は焦点を絞り、その一方で周囲の情報をシャットアウトすることなくオープンに吸収することは可能なのだろうか。ここで、交渉中に視野から抜け落ちがちな3つの事柄について検討してみる。

(1)長期的な問題

 長期的な問題のほうがえてして重要であるにもかかわらず、交渉ではたいてい短期的な問題が議論の中心を占める。このように焦点を狭く絞ると、大きな損失につながることがある。実在する合弁事業の例を挙げると、A社はB社が新製品を開発、発売するために必要とする資金を持っていた。両社はかなり強引に合意に達し、まもなく数十億ドルの売り上げが見込める新製品が誕生した。しかし、交渉をまとめようとするあまり、両社は契約書の数々のあいまいな点を視野から閉め出していた。交渉の間に長期的に遂行する諸問題にもう少し焦点をあてていたら、どちらの会社も投入した時間に見合う成果を手にしていたことだろう。

(2)相手の動機と行動

往々にして利己的な狭い焦点に固執すると、交渉の席で相手を動かしている要因を理解しそこなうことがある。自社サイドの人数を単純に増やすだけで、焦点を広げることができるという考えは理にかなっている。交渉の席に他の人間を同席させることを検討しよう。複数の視点が存在することでチーム運営の問題が生じてはくるが、視野を広げることによるメリットを考えれば、やってみる価値は十分ある。あなたの交渉チームの誰かが何らかの問題を持ち出したとき、最もいけないことは、自分の視点とは異なるというだけでそれを無視することだ。

(3)交渉議題に含まれていない問題

焦点を絞ることを重視するネゴシエーターは、一般にしっかり準備した議題を持って交渉に臨み、議論が横道にそれることを嫌う。しかし交渉の席に、価値を生み出す新しい議題を持ち出したら、どちらの側にとっても望ましい結果になる場合が多いのである。

(翻訳=ディプロマット)