全方位アプローチを成功させる方法

一方で、EV生産となるとトヨタの強みは弱みとなるジレンマがある。トヨタが提唱する「マルチパスウェイ(全方位)戦略」、つまりEV以外の選択肢もあり得るという視点は重要である。

しかし、そのような全方位アプローチが現実的に成功するためには、最初にEVで競争力を築く必要がある。

2023年4月、政府のEV戦略のスケルトンが発表された。EV販売台数を2026年150万台、2030年に350万台を目標に掲げた。また2050年、カーボンニュートラル社会の実現に向けた具体的な削減目標を掲げた。2030年までに2019年比33%削減、そして2035年に50%削減という高い目標値を示した(※)

※経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2021年6月18日)

四半期で1兆円超の営業利益は日本初

トヨタの基本戦略は、「マルチパスウェイ(全方位)戦略」である。基本戦略の本質は、トヨタの哲学にある。すなわち、ユーザーニーズに耳を傾け、地域に適した車作りをトヨタ生産方式で実現してきた。

トヨタは、既存の自動車産業と新規のモビリティ産業の両利きの経営を強いられている。

既存事業に関しては、トヨタ生産方式(トヨタ不変の思想に基づく「ジャストインタイム」と「自働化」)を通じて、高い利益率と生産能力を誇り、顧客需要に合わせた無駄のない生産で、2023年もグループ販売台数が4年連続で世界一となる見込みである。2023年4月から6月の四半期ベースでの営業利益も1兆1209億と、四半期ベースで1兆円を超える日本で初めての企業となった。

そして新規事業に当たるモビリティ産業も照準に捉え、2020年にトヨタフィロソフィー(一般企業におけるMVV)を刷新し、失敗を繰り返しながらEV戦略を進め、EVシフトを着実に加速させている。

1990年代の日米通商摩擦を、現代の米中対立と重ねて見ている方も多いことであろう。当初、コンピューターや半導体に矛先が向いていたが、最終的に焦点が当たったのは、自動車であった。簡潔に言うと、日本の新車市場を海外メーカーに開放し、北米の雇用を増加させるため国内自動車メーカーには現地生産するように、米国の政治的圧力を受け続けた問題である。