江戸城の天守は1657年に焼失して以降、再建されていない。歴史評論家の香原斗志さんは「天守の再建は非常に意義がある。だが、今日まで残されている天守台の上には、天守が建ったことがない。名古屋城と違って実現は難しい」という――。
国立歴史民俗博物館所蔵「江戸図屏風」 部分
国立歴史民俗博物館所蔵「江戸図屏風」 部分(画像=CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

江戸城天守閣の木造復元はアリなのか

東京を訪れた外国人から、日本の歴史や伝統を感じられるスポットはどこかと聞かれたとき、私は江戸城の訪問を推薦することが多い。

江戸城は日本最大の城であるのはもちろん、その規模が桁外れだ。現在も、諸大名を動員して築かれた広壮な石垣や堀が見られるうえ、ほかの城とはスケールが異なる櫓や門が残っている。外国人も説明を受けたうえで訪問したあとは、大抵びっくりする。

だが、江戸城がそんなに立派だとは、日本人でさえあまり知らない。立派云々以前に、「東京に城があるんですか?」と真顔で聞かれることも珍しくない。ましてや外国人は、その価値に気づくのが難しいようだ。

そんなとき、もし天守があれば、と夢想する。天守がそびえていれば、城があることは一目瞭然だ。そして、天守がランドマークとして周囲を照らし、旧江戸城に残る歴史遺産全体が脚光を浴びるようになるのではないだろうか。

そうしたら昨年11月、菅義偉前総理がテレビ番組でインバウンド政策に関する話をしながら、「江戸城を活用しないのはもったいない」と、天守の復元について言及したのだ。私はある意味、渡りに船だと感じたが、同時に、その難しさも痛感した。だから、「渡りに船」ではあっても、「ある意味」にすぎないのである。