時速36キロで昇るエレベーター

展望台へ向かうエレベーターは、一度に400人から500人を運べる五階建てで、「縦に移動する鉄道」と言ってもよい大きさだった。速度は分速600メートル。最高部の展望台まで約7分で到達する計算だ。なお、1968(昭和43)年完成の霞が関ビルのエレベーターが分速300メートルであるから、その二倍に及ぶ。

エレベーターのイメージ
写真=iStock.com/urfinguss
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ちなみに、読売タワーの検討から遡ること10年前、建築家のフランク・ロイド・ライトが、高さ1マイル(約1.6キロ)のジ・イリノイ(マイル・ハイ・イリノイ)を公表している。そのビル内には分速1マイル(約1600メートル)の原子力エレベーターが想定されていた。

4000メートルタワーの2.7倍の速度であったが、ライトの提案自体、実現可能性が検討されていたわけではなく、あくまでもアイデアレベルにとどまっていた。

一方、読売タワーでは高速化に伴う問題が考慮された。4000メートルもの高さを急激に移動すると、気圧の変化で身体に影響が出てくる。そこで、エレベーターの気密性を高めることが考えられた。

なお、気圧を制御するエレベーターは、のちに台北101(2004年完成、高さ509メートル)で実現することになる。

また、高速エレベーターが故障した場合には、最上部からヘリコプターで救助する方法も検討されていた。

建設費用は2160億円

問題は建設費用だ。正力から依頼された建築構造学者の内藤多仲が、タワーの建設費を試算している。フラーとは、ともに屋根付き球場の検討にあたった間柄である。

内藤の試算を見てみよう。高さは、内藤が設計した東京タワーの約12倍。鉄量は高さの自乗に比例すると考えれば、およそ150倍の鉄量を要することになる。東京タワーの鉄が3600トンであるため、その150倍で54万トン。1トン当たりの鉄の価格を40万円(当時)と仮定すると計2160億円かかる。

内藤は、「いずれにしても大き過ぎ、我々の経験をはるかに超越しているので工費の推算は困難である」と、この計算があくまでも概算にすぎないことを強調している。正確な見積もりではないとしても、予算内に到底収まりそうもなかった。

読売側が提示した予算限度額は3億ドル(1ドル360円として1080億円)だった。内藤の概算はその2倍である。

フラーは高さを2400メートルに抑えれば3億ドルの予算内で建設可能としたが、2400メートルと仮定しても東京タワーの高さの7倍以上。途方もない高さであることに変わりはなかった。