親の利便性や自分の負担を考えると勧めにくい

「すでに自主返納している」と回答した人の、自主返納のきっかけには「すでに交通事故を起こしたから」「免許更新の試験の点数が悪かった」などが挙げられていた。

「どちらともいえない」と回答した人たちの理由は、親の住む地域が「バスも電車もなく、自家用車のみがライフライン」「農家で軽トラックが運転できないと出荷もできない」といったものだった。

また「返納してほしくない」理由には、「バスが2~3時間に1本あるかどうかのところに住んでいるのに、私も遠方で助けられない」と、代わりに親を手助けできないことへの葛藤が綴られていた。

確かに「親の生活や利便性」のことを考えると、そして「自分に負担がかかる」ことを考えると、そして何より親の心情を考えると、親に免許返納を「言いたくても言い出せない」というのが本音だろう。

車に高齢者マークをつける人
写真=iStock.com/banabana-san
※写真はイメージです

ドライバーに不可欠な4つの能力が衰えていく

しかし、車は便利で快適な乗り物であると同時に、普通車で1トンを超える鉄の塊であり、アクセルを踏み込めばわずか10秒足らずで時速100キロものスピードに達する危険な乗り物でもある。

だから車の運転には、次の4つの能力が欠かせない。

①視覚・聴覚情報などによる認知力
②それによる予測力
③適切な判断力
④アクセル・ブレーキ・ハンドルなどの操作能力

これらの能力が衰えた高齢者が車を運転したらどうなるか。

過去に起こった高齢者たちによる数々の交通事故が、その悲惨な実情を物語っている。

こうした背景を受けて、2022年5月から75歳以上の高齢者が免許更新の際に受験しなければならない認知機能検査の内容が変更された。

さらに高齢者運転講習において、3年以内に一定の違反歴のあるドライバーは、実技試験に合格しない限り、免許の更新ができなくなった。

もはや車の運転に必要な能力が衰えた親に対しては、「免許を返納してほしくない」とか、「どちらともいえない」などとは言っていられない。

あなたの親が運転する車が、今この瞬間、凶器となって他人の命を奪うかもしれないのだ。