尾池氏の「2038年南海トラフ地震」説

そして、今度は「南海トラフ地震」である。

尾池氏の著書『2038年 南海トラフの巨大地震』
尾池氏の著書『2038年 南海トラフの巨大地震』

川勝知事が名前を挙げた尾池氏には、2015年3月に発刊した『2038年 南海トラフの巨大地震』(マニュアルハウス)という著書がある。

本の帯には「次の南海トラフ巨大地震は2038年頃に起こる」とある。

京都大学総長を務めた地震学者の予言を、頭から信じている人も多いのだろう。

尾池氏の「2038年南海トラフ地震」説は、2022年2月に川勝知事と行った対談で登場する。静岡県の広報誌「ふじのくに」49号に掲載されている。

【知事】先生は南海トラフ巨大地震の2038年説を発表されています。正直、驚きました。

【尾池氏】いろんな理由がありますが、一番確度の高い予測がその頃です。西日本は東日本と違ってプレート境界と陸がかなり近い。だから、(高知県)室戸岬、御前崎、潮岬などは、皆すぐ近くに南海トラフの境界があって、フィリピン海プレートが沈み込みながら陸のプレートを引きずり込んでいる。室戸岬は海溝からの距離が近いので、地震の時に海底とともに隆起する。だから港を早く浚渫しゅんせつしないと間に合わない。室津港の浚渫をどれだけしたかという記録から類推すると、2038年になります。

【知事】歴史的根拠があるというわけですね。静岡県は南海トラフの地震に備えて「地震・津波対策アクションプラン」を策定しています。プランの進展状況をPRしているうちに「南海トラフの巨大地震」という呼び名は広く知られるようになりました。

南海トラフ地震の時期を正確に予測するのは困難

尾池氏は自信たっぷりに「2038年南海トラフ地震」説を唱えたあと、続けて東海道線の丹那トンネル工事中に起きた1930年の北伊豆地震を引き合いに、南アルプス地下を貫通するリニアトンネル工事について、「地下水を動かすと岩盤が壊れて地震が起こることは、あちこちで例があります。圧入して地震が起こったこともあります。とにかく地下水を下手につつくことは良くない。これは間違いない」と断言するのだ。

つまり、尾池氏は石橋氏同様にリニア計画を真っ向から否定しているのだ。

尾池氏が「2038年南海トラフ地震」説の根拠としていた室津港の浚渫記録がいかにいい加減なものだったのかは、中日新聞が現地調査によって明らかにしている。

つまり、「歴史的根拠」(川勝知事)が覆されてしまったわけだ。

2021年以降、「南海トラフ地震」の発生確率は70~80%とされてきたが、その確率も否定されている。

いつ南海トラフ地震が起きるかなど全くわからない状況なのだ。