川勝知事がリニア着工に反対する根拠の一つに「絶滅危惧の野生生物の保護」がある。ところが、絶滅危惧種のアカウミガメの産卵地への球場建設は推進している。ジャーナリストの小林一哉さんは「川勝知事の『環境保護』は、リニア反対の名目にすぎないことがよくわかる」という――。

川勝知事が主張する環境保護の「ダブルスタンダード」

静岡県の川勝平太知事が、県内に生息するいずれも絶滅が危惧される野生生物の保護について、「リニア問題」が関わるか否かで全く正反対の主張を繰り広げている。

その生物とは、太平洋に生息するアカウミガメと、大井川に生息する川魚・ヤマトイワナだ。アカウミガメは国際自然保護連合(IUCN)や環境省から、ヤマトイワナは静岡県の絶滅危惧種にそれぞれ指定されている。

食べてはいけない静岡県の希少種に指定されるアカウミガメ(遠州浜海岸)
写真=サンクチュアリNPO提供
食べてはいけない静岡県の希少種に指定されるアカウミガメ(遠州浜海岸)

この2種類の生き物について川勝知事は、片方では絶滅も辞さない開発を進めようとし、もう一方では「自然に影響を与える」として保護を求めるという「ダブルスタンダード」を披露しているのだ。

アカウミガメの産卵地での「球場建設計画」

まず、アカウミガメの保護保全を求める声を紹介する。

川勝知事は、アカウミガメの産卵地として知られる浜松市の遠州浜海岸に隣接する遠州灘海浜公園篠原地区に「大型ドーム球場」建設の計画を進めている。

浜松市、浜松市議会、浜松商工会議所、浜松市自治会連合会は、建設促進期成同盟会を結成して、球場建設を川勝平太知事に複数回にわたり、強く要望した。

もともと同地区に野球場建設を約束したのは、川勝知事である。

当初、夜間照明施設のある球場を想定していたが、アカウミガメへの影響の声が上がると、川勝知事は「ドームで覆えば、ウミガメなど野生動物も光から守られる。これで全く問題なし」と大型ドーム球場建設に前のめりとなった。

ただ、膨大な建設費と需要予測などの不透明な点も多く、これまで明確な姿勢を示してこなかった。

県は本年度、3000万円をかけて、多額の費用を見込む大型ドーム球場建設を前提に、需要予測や民間活力を生かしたPFI(民間の資金と経営能力、運営などを活用する公共事業の手法)事業の実施可能性調査を行ってきた。

近く、報告書がまとめられる。

さらに来年度も、都市公園を整備するため、事業認可に関わる調査費2200万円の予算を計上する予定であり、計画は順調に進んでいるようだ。