個別の井戸も、水質面で問題が発生することはあるが、より深刻なのは実はこの私設の水道設備であったりする。たとえば住宅分譲地内の道路が私道だった場合、それは個人の私有地として、基本的に公的な補修工事は行われず、所有者の自己負担で修繕するしかないのだが、水道設備においても同様で、公共事業でも多額の出費を要するような水道の維持管理を、せいぜい数百世帯の住民が結成した管理組合で続けている実態がある。これは並大抵の話ではない。

このことは分譲マンションの共有設備に置き換えてもらえばわかりやすい。事態はマンションよりも深刻だ。後述するが、なにせ限界ニュータウンには分譲当初から半世紀近くを経た今なお、一度も家屋が建てられたことのない空き区画(空地)が多数存在する。実際に住戸が建築された区画数が、総区画数の50%を下回っているところなどまったく珍しくない。

ところが、分譲地の開発当初に設置された水道設備は、単に、販売広告で「上水道完備」と書くことだけを目的にしたような、見た目だけ取り繕ったハリボテの共用設備(実はそのようなものも少なくない)でもない限り、基本的には地中に埋設された水道管も含めて、あくまですべての区画で住戸が建てられ、利用されることを想定して作られている。

それを、想定人口の半分も満たないような住民のみで維持するとなればいったいどうなるか。マンションで言えば、居室の半数が空室かつ管理費も納入されていない状態で、管理を維持している状況に等しい。結果、すでに老朽化が進んだ古い水道設備や水道管の応急的な補修で予算を消化するばかりで、設備の刷新まで行う余力がなくなってしまう。

それどころか、開発当時の水道管の埋設図面が保管されていなかったために、自ら利用する水道設備の、水道管がどこに埋まっているのか、今なお正確に把握していない団地もある。地中の水道管に破断や亀裂が発生し、漏水が地表に現れた時点で、その水道管を探しながら掘り進めて補修を試みるという応急工事を行っている。

この場合、当然、地中のどこかに漏水したまま、正確に特定できていない破損個所も存在するはずなのだが、現状では漏水したまま放置し続けるしかない。事情に詳しくない方にはにわかに信じがたい話かもしれないが、私設水道の規模によっては、このような状態にある水道設備も、「上水道普及率」の数値に含まれ、既製の水道設備として追認されている。

これは排水においても同様で、基本的に公共の下水道が配備されていない地域は、限界分譲地に限らず個別の合併浄化槽を使用して生活排水を処理するが、これも住宅団地によっては「集中浄化槽」と呼ばれる専用の私設下水道設備を使うところもある。そして、その集中浄化槽が抱える問題もまた、上水道と同じである。

もちろん、そのあまりの不経済・不合理さに、そういった私設の上下水道設備を放棄し、各家庭の個別井戸・個別浄化槽へと切り替えた分譲地も存在する。あるいは、最初から私設上下水道設備は使用されないままの分譲地もある。

しかし、既にあるインフラ設備を放棄し、各戸がそれぞれ自前で上下水道設備を新たに用意するとしても、世帯によってそれぞれの経済的な事情もあるだろう。合意を形成するのは容易な話ではない。

問題を先送りにしていると言っては言い過ぎかもしれないが、他に解決策もないまま、今ある設備を使える間は利用する、という状態が続いている。

当記事は「AERA dot.」からの転載記事です。AERA dot.は『AERA』『週刊朝日』に掲載された話題を、分かりやすくまとめた記事をメインコンテンツにしています。元記事はこちら
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