BIMのメリットは作業効率化だけにとどまらない。

BIMはデジタル(仮想空間)上でのシミュレーションを駆使した設計検討にも強みを発揮する。そのため、資材を不必要に浪費することもなくなり、コスト削減や工期短縮を実現させることが可能になる。

タブレット上に表示されたバーチャルな建築物のイメージ
写真=iStock.com/Warchi
※写真はイメージです

日本でのBIM活用は50%にも満たない

諸外国では工期削減に取り組む上で、BIMの活用は当たり前となっている。国土交通省が2023年3月に発表した「建築分野におけるBIMの活用・普及状況の実態調査」によると、BIMの導入状況は総合設計事務所で81.4%、専門設計事務所で41.3%、総合建設業で41.1%、専門工事会社で60.0%となっている。全体では48.4%と半数にも満たず、建設プロセスにおけるBIM活用はまだまだ進んでいない。

なぜ日本ではBIM活用は進まないのだろうか。

日本の建設業界では、施工に必要な情報が網羅されていない設計図を基に、施工に関わるゼネコンやサブコン、専門工事会社がそれぞれ自社に必要な情報を図面を書き加えながら(情報を追加しながら)、建物の完成とともに図面が完成するという慣習になっている。サプライチェーンの「部分最適化」を重視するあまり、これまでの慣習を変えることへの理解を得ることが難しいのである。

新技術を導入しやすくする環境整備が必要

こうした課題が山積する建設産業において、「デジタル活用」と「フロントローディング」はどのように実現できるのだろうか。

まずは情報を提供したり、相手の提供する情報を信頼するためには相互の信頼関係、つまり、これまでの取引を超えた、パートナーとして相手を成長させるというコミットメントが求められる。よりフラット、対等な関係性などはその第一歩であるが、そのための多少の遊びを設けることは必要だ。働き方、賃金、工期など全てがキツキツでは変化は生まれにくい。

今後、デジタル技術の進歩のスピードは加速し、新しい技術が次々に出てくることが予想される。国や自治体には、これまでのやり方に固執せず、社会全体がより良い方法を積極的に取り入れるように後押しをしてほしいと思う。

同時に、建設に関わる企業が、新しい手法や必要な技術を導入し活用しやすい環境整備にも期待したいと思う。BIM加速化事業の補助金なども一部でスタートしているが、国としてのコミットメントがない中では迫力に欠けていると言わざるを得ない。

官民が一体となって、持続可能な建設産業と社会(インフラ)の実現に向けて、今までの制度や仕組み、常識を、「勇気を持って変えていく」ことが必要だと、私は考えている。

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