ハイブリッド車はトヨタの技術が世界一

EV、HV、FCVと、それぞれの課題と可能性を技術面から概観してきたが、次世代車争いはビジネスの観点から見ても興味深い。

トヨタは24年3月期の連結純利益予想を上方修正して、過去最高の3兆9500億円に引き上げた。売上高純利益率は21年上期にテスラに抜かれていたが、5半期ぶりに抜き返した。

トヨタディーラーのファサード
写真=iStock.com/rep0rter
※写真はイメージです

トヨタの業績がよかった理由の一つが、HVの好調だ。トヨタはHVに経営資源を注ぎ込んでいたためにEVシフトで出遅れたが、EV一辺倒の風潮に変化が見え始めた今となっては、対応の遅れが功を奏した格好になる。

追いかける海外勢のうち、アメリカのビッグスリー(GM、フォード、クライスラー)はかなり厳しい。ビッグスリーをめぐっては、全米自動車労働組合(UAW)が40%の賃上げを求めて23年9月からストライキに突入。ストライキは1カ月半にも及び、最終的に労使は25%の賃上げで合意した。25%の賃上げで、従業員の初任給は時給4300円以上に。1日あたり8時間、月に22日間働くと、月給は約76万円。次世代車として何をつくるにしても、人件費がそれだけ跳ね上がると市場で勝負にならない。今回の妥結でビッグスリーは自滅するほかなくなった。

UAWとビッグスリーの妥結を受けて、トヨタもアメリカで9%の賃上げを発表した。その程度で済んだのは、トヨタがUAWには入っていないからだ。従業員にマルチタスクが求められるトヨタの生産方式は、組合員の職務範囲をガチガチに決めているUAWと相性が悪い。そのため、最初からUAWの勢力が弱い南部に工場をつくった。自動車産業が集積している北部を避けた戦略が、今になって効いている。

実はテスラもUAWに加盟しておらず、アメリカでは西部や南部に生産拠点を置く。国内生産にもこだわらず、人件費や優遇措置などで自社に都合のいい拠点、具体的には中国やドイツのベルリン郊外にも工場を開設している。

マスク氏は南アフリカ出身で、カナダを経てアメリカに渡った。そうしたバックグラウンドゆえに、マスク氏が率いるテスラは米自動車産業を支配するデトロイト中心主義に毒されていない。しかし、そんなテスラも大量生産に関して経験が浅いことがアダとなり、オートパイロットの不具合に関して北米だけで200万台のリコールを抱えるなど、最近は追い込まれている。

その他、ドイツ勢はEVシフトが遅れ、トヨタ式のような性能のいいハイブリッド技術も持っていないため、明るい展望を描きにくい。

今後の技術動向しだいだが、24年以降の自動車業界は、EVシフトが明確に減速すればトヨタの一人勝ちだ。一方で、EVシフトの潮流が勢いを落としつつも大きく変わらなければ、トヨタとテスラ、そこに安いコストでEVをつくれるBYDなどの中国勢が加わって混戦の様相を呈するだろう。

次世代の自動車メーカーの勝者はどこなのか。基本となる駆動方式が二転三転しているだけに、結論を急がずに長い目で見たいところだ。

(構成=村上 敬)
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