EVそのものは電気で走るため、CO2を排出しない。ところが、皮肉なことに世界の電力の6割以上は石油や石炭などの化石燃料からつくられている。一見クリーンに見えるEVも発電方法はクリーンではなく、イメージほど地球環境にやさしくないのだ。

CO2排出量を減らすのに、EVは本当に理想的なのか。たとえば私が乗っているトヨタのHV(ハイブリッド車)SUVは、40リットル給油すれば1000キロ走ることができる。エンジンと電気モーターを内蔵するHVは、従来のガソリン車と比較して走行距離あたりの燃料消費量が格段に少ない。

化石燃料を燃やしてつくった電気で走るか、それとも少ない化石燃料で効率よく走る車を開発するか、あるいはまた別の道を探すか。そこは落ち着いて議論する必要がある。

無論、専門家の間では長年そうした議論が重ねられてきたが、明確な答えがないまま「EVこそカーボンニュートラルの主役」という流れができた。各国政府はEV普及に積極的に補助金を出し、狂騒に近い状態が続いていた。

ノルウェーで充電問題が表面化したことも手伝い、異様な空気がようやく変わりつつある。イギリスやスウェーデン、中国はEV購入補助金を打ち切った。持続可能な社会のためには、どのような自動車がベストなのか。24年は、それを偏見のない視点で議論するいいタイミングである。

中国ではEVの墓場が問題に

EVの対抗馬となりうる技術を見ていこう。まずはHVだ。HVには、トヨタお得意のガソリンで走りながらつくった電気でモーターを駆動する方式と、充電した電気がなくなったらガソリン走行に切り替えるPHEV(プラグインハイブリッド車)方式がある。

エンジン始動用の補機バッテリーは、両者ともにバッテリーあがりを起こしやすいという課題がある。しかし、燃費に関して言えば、同じ「ハイブリッド」という名前がついていても、トヨタに代表される方式のほうが断然いい。

そして、EVでもHVでもない第3の道が、水素で走るFCV(燃料電池自動車)だ。全方位戦略のトヨタは、20年にFCVの「MIRAI」をフルモデルチェンジしたが、これはすこぶる評判が悪い。というのも、水素ステーションの整備が圧倒的に間に合っておらず、これではうまくFCVが普及したとしてもノルウェーの二の舞いだ。

水素は大型プラントで集中的につくってステーションに輸送されるが、バイオを活用して水素を製造する方式も研究されている。この技術を使えば分散型の水素製造が可能であり、実用化されれば水素ステーション不足の問題は解決する可能性がある。まだ課題は多いが、今後に期待というところだ。

受けて立つEVはどうか。EV先進国の中国では今、EVの大量廃棄が問題化している。EVはバッテリーがくたびれると使い物にならない。中国各地で役目を終えたEVが大量に放置され、「墓場」ができているのだ。

電気自動車の墓場
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バッテリーはEVの弱点の一つだが、解決策がないわけではない。取り外し可能なバッテリー交換方式の採用である。バッテリーの電気がなくなれば、充電所に置いてある別のバッテリーと交換すればいいので、廃棄の問題は発生しない。また、充電するまで時間がかかる従来の方式と違い、待機時間がなくなるのもいい。実はバッテリー交換方式は、かつてベタープレイスというアメリカのベンチャーが挑戦したものの、うまくいかずに倒産した歴史がある。イスラエルでは普及したが、それは国土が狭かったから。アメリカは広すぎて、全土にバッテリーを用意することができなかったのだ。

しかし22年7月、ヤマト運輸はトヨタや日野自動車、いすゞ自動車が出資するCJPTと、商用電気自動車(BEV)のカートリッジ式バッテリー実用化に向けた検討を開始。ベタープレイスの失敗で一時は忘れられていたバッテリー交換方式が、ふたたび注目を集めている。宅配業とバッテリー交換方式のEVは相性がいい。充電所より拠点の数が多く、バッテリーの交換が簡単にできる。住宅街を走るのに排ガスを出さないことも、消費者にはウケがいい。商用ならば、バッテリー交換方式が復活する可能性はある。