JR東日本の営業エリアの中で、もっともコスパが悪い線区はどこか。交通ライターの宮武和多哉さんはJR東日本の発表資料を基に「儲からない路線・区間ランキング」を作成した。今回は2022年度版をお届けする――。

JR東日本にある「ご利用の少ない線区」とは

2023年11月20日、東日本旅客鉄道(以下:JR東日本)は、2022年度における1日の乗客数の平均(輸送密度)が2000人未満の34路線・62区間について、収支・乗客数などの経営情報を公開した。

その資料(「ご利用の少ない線区の経営情報の開示について」)によると、「ご利用の少ない線区」と位置付けられた路線の運賃収入の合計は41億7000万円だが、路線の維持に690億円を要しており、約648億円の営業損失(赤字)を出している。

利益率に換算すると10%にも満たず、これらの鉄道路線・区間は、得られる売り上げに対して過大な経費がかかっている。つまりコスパ(コストパフォーマンス=費用対効果)が非常に悪い。17都県にまたがるJR東日本管轄の鉄道路線の中で、もっともコスパが悪いのは、どの路線の、どの区間か。

本記事では、路線の赤字額ではなく、路線の費用対効果がわかる営業係数を基に、ランキングを制作した。ランキングとともに、営業係数上位の路線が抱える個別の問題点も分析していく。

営業係数=100円の収入を得るために、費用がいくらかかるかを示す指標

各社によって経費に含める基準などの違いはあるが、おおむね「経費÷収入×100」で計算される

【図表】不採算ランキングJR東日本編 ワースト1位~10位
JR東日本ニュース「ご利用の少ない線区の経営情報(2022年度分)の開示について」(2023年11月21日)を基に筆者・編集部が独自に作成。

1位は東京近郊の非電化路線

1位:久留里線 久留里駅―上総亀山駅間(千葉県)

営業係数ワースト1位となったのはJR久留里線。その末端区間(久留里駅―上総亀山駅間)の営業係数は「16821」。つまり、100円の運賃収入を稼ぐのに、1万6281円を要している。

JR久留里線の車両
筆者撮影
JR久留里線の車両

久留里駅―上総亀山駅間(9.6Km)の運賃は210円。相当する運賃収入を稼ごうとすると、東京駅―鹿児島中央駅間(1325.9Km)の新幹線・指定席の運賃に相当する費用が必要になる。こう言い換えると、久留里線のコスパの悪さが、お分かりいただけるだろう。

この区間の1日の利用者は54人、年間の売り上げは約100万円。また、残り区間(木更津駅―久留里駅間)の営業係数は「1153」。久留里線は全線にわたって苦境にあり、低コスパの根本的な原因は利用の低迷に他ならない。

しかし、久留里線の沿線は都内から70Km圏内にあり、距離だけで見れば、小田原、高崎、宇都宮よりはるかに東京に近い好立地だ。にもかかわらず東京近郊の通勤路線として機能していないのは、高速バスとの競争によって、鉄道移動そのものの存在価値が下がったことにある。